クリスマスイヴも関係ない
毎日毎日稽古漬け
そんな子供時代を過ごした


行事事に疎い俺でも、彼女がクリスマスを楽しみにしていたことには気づいていた――――――





俺には付き合って六年になる彼女がいる

素直に感情を口にして
ころころと表情が変わって
分かりやすくて可愛らしい。そして凄く綺麗で、料理も上手くて気が利いて
自慢の彼女だった。

気が利いたことも言えない、口下手で不器用な俺はそれでも俺なりに彼女を愛して大切にしていた――――はずだった。





バタンと
扉を開くと中は真っ暗で首をかしげる

「ヒナ?」

昨日、彼女は来ると言ってたから駅前でプレゼントを決めてたら帰りが遅くなった
ガラスの中にツリーが飾ってある小さな置物
きらきらで可愛くて、ヒナが喜びそうだと思った。

靴を脱いで、電気をつける
けれどヒナはいない
良い匂いがしてキッチンに入ると小さな鍋二つに煮魚と味噌汁が入っていた
米も炊けてて彼女がいたのは間違えない

「ヒナ?」

トイレも風呂場も、寝室にすらいない

俺の家にヒナはいなかった。
口にこそ出さなかったが、彼女はクリスマスをとても楽しみにしていて
だからこそ一緒に過ごすと疑わず、残業もしないで帰って来たのに
表情には出さずに落胆しながらソファに座りネクタイを緩める

行事事に疎く、興味が無い俺でも知っている
クリスマスは大切な人と過ごすと日だ
ヒナは、俺以外の誰かと過ごすのだろうか――――


一気に胆が冷えた
俺は、洋食が苦手だ。しかも甘いものなんて見るのも好きじゃない
昔ヒナが持ってきたツリーをつい嫌そうにしてから、彼女が持ってくることは無くなった


俺の側では、彼女が望むクリスマスは迎えられないのだろうか
だから、彼女は今ここにいないのだろうか

「っ、」

慌てて電話をかけるも虚しくも留守電に繋がって

失うかもしれない

そう思うと居てもたっても居られずに、うちを飛び出した







かちゃりと、鍵を開けて彼女の部屋に入る
靴はあった。
彼女の靴だけな事実に安堵する

そのまま部屋に入るとテーブルの上にケーキと、有名店のチェーンのチキンの箱があって
家の主不在のその部屋で輝く窓辺のよく出来たツリーがさらに寂しさを煽っていた




「ヒナ?いるか?」


返事は無い
けれどベッドの上に彼女は眠っていた

近づいてベッドに腰かけると、彼女の頬には涙の跡があった

俺のせいで、傷つけたかな……


頭を撫でる
彼女は儚くて、まるで消えてしまいそうだった

水を準備して目覚めを待つ
――――いつしか時刻はクリスマスイヴを過ぎてしまっていた。きっと彼女の中では一番最低のイヴだったろう

「……ん……」

優しく頭を撫で続けるとぼんやりと瞼が開いた









ひきつった笑顔で、何かを堪える彼女に
いつもと違って好きと言ってくれない彼女に

捨てられそうになって始めて好きと言えた



泣きながら、嬉しそうに笑った彼女は
とてもとても綺麗だった









「クリスマス、終わっちゃったね」

「……イヴが、だろ。まだ本番があるだろ」

「イヴが殆ど本番でしょ」

「そうなのか」

「亮くんが私のこと好きなら、亮くんのうちで待ってればよかったなぁ」

腕の中でしょげる彼女をぎゅっと抱き締める

「クリスマスだけど、仕切り直すのは駄目なのか?」

「りょうくん………大好きッ!」

振り向いて嬉しそうに両手を拡げて抱きついてくる彼女の背中を撫でる

ケーキやチキンは駄目でツリーなんか邪魔としか思えないけど

彼女にプレゼントをあげたい
大切な人と過ごすクリスマスを、彼女と過ごしたい




こんな俺だけど、どうか一緒にいてください。

なくしたくない大切な大切な―――…


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