クリスマスイヴは、チキンとケーキと
ツリーを飾って、プレゼントを交換する


それが、うちで長年味わったクリスマスだった






「…………」

夕飯の支度をして、少し溜め息を着く
豆腐とわかめの味噌汁
マグロの煮付け
それに少しのお漬け物

全然クリスマスっぽく無い。無いけれど、仕方がない
彼は有名な道場の跡取り息子で
小さなころからずっと和食だったから洋食が苦手らしい

また、必要以上に物を置くのが嫌いだから当然ツリーも無い
付き合った当初に小さなミニツリーを持ち込んだのだけど嫌な顔をされたのを今でも覚えてる

彼のことは、好きだ。
好きだけど、私と彼は違いすぎる
元々寡黙で控えめな彼に一目惚れして必死にお願いして始まった関係だ
好きだから、頑張ったけど
好きだから、殆ど良い反応を返してくれない彼といるのが辛くなって来た

頑張って和食を作っても、美味しいと言われたことは無い
頑張っておしゃれをしても、カワイイとも綺麗とも言われない
好きだ、なんて言われたことなんかない


一人相撲だったのかな
私ずっと駄目だったのかな


込み上げる涙を振り切るように、ファーが可愛いクリーム色のコートに袖を通して彼の家を出た

『明日もくるね』
昨日そう言ったけど、彼はうんともすんとも言わないで本を読むだけだった








駅でチキンとケーキを買って、家に帰る
うちの窓にはスプレーアートで書かれたツリーが外の灯りでキラキラ光っていた

暖かい部屋に
綺麗なツリー
美味しいケーキ
暖かいチキン


――――――渡すつもりだった、プレゼント


私の部屋は彼の部屋で、彼を待つより


ずっとずっと寂しかった。

結局美味しそうなそれに手を着けること無く、寝室に籠ってわんわん泣いた
だいじょうぶ、仕事はもう年末休みに入ったから


久しぶりに全力で泣いて、全力で泣き寝入った



最後に眼に映ったのはチカチカと光る携帯のお知らせランプだった―――……












さわさわと、優しく頭を撫でられる感触で覚醒する
腫れて重い瞼をゆっくりと開けば、無表情で私の頭を撫でる彼が居て
コップに入った水を差し出されて、ありがとうと身を起こしてのむ
酷く喉が乾いていた

―――――?

「なんで、いるの?」

「うちにヒナいねぇし、携帯にも出ねぇから。なにかあったのかと」

とんとんと、隣に座って背中を撫でる彼に心臓が締め付けられる
好き。好き。大好き。だから辛い

「ごめんね。ちょっと用事が出来てね」

えへへと誤魔化すために笑うと目が細められる
長く一緒にいた彼には私の嘘なんてバレバレだろう。でも大丈夫、彼は深くは追求しない

そうか。それで終りだ。いつも


「―――なんで、泣いた」

「悲しい映画見ただけだよ?」

「なんで、………」


彼の表情がどんどん歪む
いつもと違う状況に私は動揺していた

気がつけばぐっと引き寄せられて、彼の胸に埋められる
後頭部をしっかり押さえられて動けない


「俺は、口下手だし甘やかしてやるのも苦手だ。………もう、俺が嫌になったか?」

「っ―――――!!」


ううん、そんなこと無いよ。私亮くんが大好きだよ
いつもさらっと言えた言葉が、言えない
今は、言えない
彼の事を受け入れ切れない今の私じゃ言えないから
そんなこと聞かないで


「もう、……好きって言ってくれないのか」

淡々とした声音は
どこか沈んでるようだったのは私に都合が良い気のせいだろうか

彼の事は、好きだ。
けど今は、言いたくない。彼の本心が見えないから
もう必死に捧げ尽くすだけの状態に、疲れた
私は見返りが、欲しい



「それでも俺は、――――






ヒナが、好きだ。」



ガバッと勢いよく顔をあげると、気まずそうに顔を逸らされた
ぱっちりと、見開いた瞳からボロボロと涙がこぼれると彼がぎょっとしてそれを服の端でぬぐった


「す、き?亮くん、私の事…好きだったの…?」

「?あぁ。好きじゃなきゃ付き合わねぇよ。お前まさか気付かなかったのか?」

「ぜ、ぜんぜん知らなかった……ずっとずっと私ばっかかと…い、いつから?」

「っ、始めからだよ。俺と違って素直に感情を出すお前が、始めから…ず、ずっと…」


もごもごと口ごもる彼のせいで滝のようにどばぁーっと涙が溢れる


「、そんな、泣くな。頼むから。俺がもう嫌いなら、帰るから。頼むから泣くな。」

ふいに離れた身体を、必死に捕まえて抱きつく
彼のスーツに涙が染み込んでいって駄目だと思ったけどもう堪えきれなかった

「わた、わたしも、すきぃっ。亮く、ん、だいすきぃ、」


うぇぇぇぇんと声を上げて泣き出した私を
困ったように抱き締めながら、とんとんとあやしてくれる手が凄く優しくて
溜まりに溜まった寂しさを吐き出すように
いっぱいいっぱい泣いた




ケーキも、無くていいから
チキンもツリーも、もういらない






彼からの言葉のプレゼントだけで
とりあえず私は満足、だから。





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