昔の記憶にあるのは、








私を守り抱き締める優しくて冷たい手と

引き裂かれて血飛沫をあげる大好きなお母さん



私の実母の記憶は、もうこれしかない













崩れ落ちるお母さんの大きな身体
私は泣きじゃくりながらすがりついて、なんども揺さぶったけれど二度と動くことは無かった

理解は出来た。死んだって
でも受け入れることは出来なかった


私の全身も、母さんの血肉で汚れたけれどただひたすら泣きじゃくり動かない身体を揺さぶり続ける




「─────っ、ごめんっ、ごめんなっ」


そんな私を、
暖かな身体が包み込んだ


一瞬で涙が引っ込む
嫌だ、嫌い
人間なんか大嫌い
助けてお母さん


人間には理解できない声で叫び暴れるも、私を拘束する腕は緩まなかった


怒りと悲しみのあまり鱗が逆立ち、
普段は白い肌の腕にまで鱗が現れて
そんな身体で暴れると人間の身体は容易に傷ついた。けれどもそれでも私が解放されることは無かった


「──────謝っても許されないけど、ごめんっ」


ぽたり
私の首に何かがあたり
毒か何かかと思いはっと振り替えると、







人間は悲しそうな顔で泣いていた




暖かな腕は何をしても離れなくて
目の前の人間はボロボロ泣いていて
すぐ横にはお母さんが死んでいて




もう限界だった
堪えることなんて出来なかった


じわりと、なみだが込み上げる



『あああああああ゛あ゛あ゛!!!!』



大嫌いな、人間なのに
─────私は彼にすがりついて、大泣きした。
お母さんを失ったことが悲しすぎたから……























しばらくして、いつの間にか泣き寝入っていた私が起きるとそこは人間の家の中だった
きょろきょろと辺りを見回して、私が寝かされていたふかふかの四角い物の下にしゅるりと潜り込む


なにここ
わたし、どうなっちゃうの



お腹も減ったけど
お母さんがもういない以上私は一人で狩りをしなくてはいけない


そんなの簡単だ、私は触れるだけで良いんだから


手始めにこの部屋に一番に入ってきた奴を殺そう




─────そんなことを考えていると、不思議な匂いがした
さほど優れてない私の嗅覚でもわかる、良い匂い。きっと食べ物の匂い



きっと、“人間”が作った食べ物の匂い。
お母さんを殺した、“人間”が───────


脳裏に、母さんの冷えきった血塗れの身体が浮かんで
胸に悲しみが込み上げて、そのまま暗い箱の下でめそめそ泣いた。泣きじゃくった





泣くのに夢中な私は、いつの間にか人間が部屋に入ってきていたことに気がつかなかった




「んー……ごめんな?」


『!!!!!!!』


ずるべしゃっずるずるずる

突然、尾の先を引っ張られて顔面を床に打ち付けると勢いよく箱の下から引きずりだされた
摩擦で肘とか鼻とかあちこちを擦りむいて凄く痛い

涙も引っ込んで、私の尾を持つ人間を睨み威嚇するも人間はひょいっと私を抱き上げてふわふわの四角い箱の上に座った


「ほら、食わないとダメだろ?ってまた怪我してるし。せっかく治したのになぁ」


私の威嚇もなんのその
人間は擦りむいて血が滲んだ傷口に手をかざして一瞬で治した
そのことに驚いてる間に強引に口に何かを突っ込まれる


『んぐぐぐっ!!』


熱いそれに、舌を火傷して
ばっと人間を振り払い逃げてから気付いた



口の中に広がる食べたこともない不思議な味


あの熱いのは食べ物だったの……?


「大丈夫、毒なんか入ってないから。ほら、おいで?」


ほーらほーら
何かを差し出しながら、へらっとした笑顔で人間が私を呼ぶ



しばらく警戒しても



その場で下半身を丸く巻いて座り込んでも






人間の笑顔も、態度も変わらなかった





あまりに変わらないそれに私の威嚇も困った表情になってくる


私は、威嚇してるんだから
困るか逃げるかしてくれないと、私はどうすれば良いの?





「ほーら、おいで?」



そしてまた声をかけられて



恐る恐る近づいてぱくりとソレを口に含むとすっかり冷めたソレはやっぱり味わったことの無い不思議な味がした

びくびくしながら、食べ物を飲み込み人間を見上げると


「大丈夫、俺が守ってやるからな」



お母さんを殺した人間は、そう言って笑った。
















ぱちり


「…………」


目覚めるなり、私を抱き締めて寝ていたるーくんの上に乗っかって
抱きつきながら必死にすりすりと甘える


「ん…てぃ、?」

「ちゅーして。抱き締めて、撫でて、いっぱい甘やかして」

「わるいゆめでも、みたのか?」


舌ったらずなるーくんを可愛いと思う
それでも寝起きでぼうっとした彼は優しくて撫でてくれて、顔中にもキスをしてくれて


再び布団の中に私を入れてしっかり抱き締めてくれた


「こわくないぞ」


甘い甘い声で大丈夫、と囁かれながらたくさんキスをされる


怖い夢?悪い夢?
ううん、そんなんじゃないの


幸せな幸せな夢だったの
フリィルは初めから終わりまで優しくて愛情深くて
私は、本当に愛されていたの


なのに胸にぽっかりと穴が空いてるような感覚に陥った




私は、ソレを埋めようと
大好きなるーくんに一生懸命あまやかして愛してもらった。








『甘く狂おしい思い出』





ぺろぺろとるー君の首を舐めていると、抱き寄せられて同じ目線の位置まで移動させられた


「そういうことされると抱きたくなるだろ?」

「今はやーだ」

くすくす笑いながら、彼の首に腕を絡めてすりすりする
するとるー君も笑いながら今日はやけに甘えん坊だなと抱き締めてくれた







こんな幸せな時も
いつか夢で見て切なくなる日が来るんだろうか






そんな日なんか来なければ良いのに。私は幸せにひたりながらそう願った



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -