戌の場合





「……にゃんにあの呼び方をやめさせるにはどうすれば良いと思う」

「「そのままでも問題無いでしょう(だろ)」」

見事にハモったこいつらを、酒瓶で頭を殴り飛ばしてやりたい
だがそうするわけにも行かず(無駄な争いは後々面倒だ)眉間に皺をよせてクイッと杯を煽る


俺につけられた不本意なあだ名『くーちゃん』をなんとかしたいが、いくら言い聞かせてもにゃんは
「くーちゃんはくーちゃんでしょ?」
と言うばかりで聞き入れてはくれない




にゃんが絡んで来てくれるのは嬉しい
だが、あんな呼び方では男として見られて無いんじゃないかとがっくりする



「にゃんは少し幼いところがあるから、仕方ないですよ。彼女は自分に都合が良いこと以外は中々認めたがりませんから………」


あいつと付き合いが長い利虎が言うのならそうなんだろう。
はぁ、と溜め息をつきながら俺はまた酒を注いで煽った
──────しばらくは、酒量が増えそうだ








寅の場合




「私、最近すごく恐ろしいことに気がついたんですよね」

「なんだよ」

二人とも目線で先を促してくれた

なんだかんだ言って彼等はとても優しい親友だ。相談にも愚痴にも悩みにものってくれるし、ありがたいと思うだけ私ものる

口に出しては言いたくないが、辰も狗も大切な友達なんだ

─────大切だけど、あくまで友達なんだ


「巳乃さんが酔うとよく私にキスをしてきたじゃないですか?」

「おいやめろ。嫌な予感がする」

おどろおどろしい空気を出しながら語り出した私を辰が止めようとするも、彼はニヤニヤ笑う狗によって取り押さえられた











「あれって、辰と私の間接キ「お前はうちの家庭に修羅場をおこしてぇのか」」




「冗談ですよ。辰とキスするくらいなら土下座でもなんでもしますよ」


「利虎と間接キスとか最悪だ………」



先程とは違いケロリと笑うと狗に解放された辰が嫌そうに嫌そうに酒を飲み始めました

ま、間接キスとか同姓からのキスなんか気にしないですがね。
來兎様とするのに比べたら雲泥の差ですし



だが、そんな余裕も狗の一言で一瞬で崩された








「つーことは、來兎と巳乃が間接キスしてることになるんだな」






巳乃さんと、來兎様が……?


想像しただけでも嫌だった
そのまま部屋のすみにうずくまり酒瓶を抱えて凹む

部屋の真ん中では辰も暗くなってるなか


狗だけが楽しそうにケラケラと笑っていて、そこはかとない殺意を抱いた。


とりあえず、家に帰ったら消毒をしてもらおうと思う







辰の場合





「俺の悩みは手のかかるお前らだ」



「一番手を焼いてるのは嫁だろ」

「えーっと、結婚生活が長いのに子供が出来ないことで巳乃さんが悩んでることらしいです。辰はもう子供が出来ない身体なんじゃないですか?」


「だれが枯れたじじいだ」


ちょっと待て狗藤はともかく、利虎ふざけんな
ふんわりとした一見無害そうな笑顔で、種枯れたとか言い出した奴の頭を片手でがっしりと鷲掴む


「だって……ずいぶんと高齢ですし?」

「お前が言うか」

「巳乃と並んだ姿も、今利虎とじゃれる姿もロリコンにしか見えねぇしな」

「お前も言うか」

空いてる手で狗藤の頭も鷲掴むも奴等はケラケラと笑うばかりでなんの効果もねぇ
たとえ殺意を出してもこいつらには本気じゃないのがばれるから意味も無い


「俺も良い歳だがお前らだって充分じじいでばばあだし、ロリコンでショタコンだろーが」


「「辰(龍哉)には負けますから(るぜ)」」



ミシリと
頭蓋骨が音をたてた










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