ふわっと飛んで、木の高いとこに座り涼やかな風を堪能する

これは空を飛べる種族の特権だ────もっとも私の一族では私と兄しか飛べないが。


綺麗な夕暮れを高い位置から見つめて
ほう、と感嘆の溜息を漏らすと風にのって私の大好きな香りがした


─────彼だ。彼が帰ってきた


顔が綻ぶのを止められない
ただ会いたくて
ただ大好きで

そのまま風を操り、久しぶりとなる彼のもとへ急いだ。













來兎様は、いた。
一族の人たちと談笑をしながら縄張りに帰る途中らしく完全に気配を殺した私には気づかない




………………




彼の隣には、兎族の女性がいた

知らなかった。今回の遠征に女性が同行していたなんて

別に彼が他の女性と関係を持ったって、それは種を残す本能として当然のことだから構わない─────名目上は。



本音を言えば私以外を見ないで欲しかった

木ノ上で踞って、じっと優しい微笑みを浮かべる背の高い彼を見つめる

……………駄目だ私、どんどん欲張りになってる


本当は來兎様に駆け寄って抱きつきたかったけど
嫉妬でどろどろになる前に、気付かれる前にそこを離れた。


















「あ゛あ?利虎に避けられてる?気のせいじゃねーの」

「いえ……彼女を探してるんですが、もう三日も逢えてないんです。利虎殿から何か聞いてませんか?」


心底参った
彼女に逢いたい一心で仕事を早く終わらせて遠征から帰ったのに、僕を待っていたのは僕を避け続ける利虎殿だった

和虎殿にも確認をとったから間違いない
彼女は僕の匂いを感じ取った瞬間逃げるように消えてるらしい


嫌われた、なんて考えたくない
でもじゃあ何故僕と逢ってくれないのだろう

遠征に出る前は普通だったのに……もう一週間も彼女のふんわりとした笑顔を見ていない

「聞いてる」


龍哉殿の言葉にハッと我に帰り、それと同時に僕の知らない利虎殿を知る彼にどうしようも無く妬心が込み上げる


「んな顔すんじゃねーよ。あくまでアイツは俺の親友だ。で、お前は利虎の悩みを聞きたいのか?あいつに逢いたいのか?」


「……逢いたい、です。悩みは利虎殿に直接聞けますから、今はとりあえず彼女に逢いたいです」


「あいつはお前に迷惑をかけないように心の整理をきちんとしてるのに、それを無駄にしてでも逢いたいのか?」


「彼女に纏わることで迷惑と感じることなんてありませんよ。彼女と気軽に話が出来るだけで僕は十分幸せすぎるくらいなんですから」


お前達ホント、バカだなぁと龍哉殿はケラケラ笑って巳の社の奥へ入っていった

馬鹿でも構わない。馬鹿になるほど、利虎殿のことに関しては余裕が無いんだ

逢いたい、触れたい、声を聞きたい、その華やかな笑みを僕に見せてほしい


「ほらよ、もって帰れ」

「り…こどの?」


社の奥から現れた彼は、
眉間に皺を寄せたままうなされるように寝てる利虎殿を抱えてきた

なんで、此処で彼女が寝てるのか、とか
色々と疑問はあったが



今はとりあえず僕の手の中に戻ってきた小さな彼女を強く抱き締めた



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