その日は気分が良く無かった
良く言えば不機嫌
悪く言えば最低最悪状態だった




「アティ?どうした?」

「うるさい」


私は我儘だから友達が少ない
それでも私を理解してくれる大好きな家族と数少ない友達がいればそれだけでよかった。よかったんだ



前を歩くるー君の学ランにぼすぼすとパンチをかまして、ぷぅーっとむくれながら足元の石を蹴飛ばす

そんな私をるー君は心配そうにちらちら振り向いていたが、今の私には知ったことなかった

イライライラ



そんな不機嫌きわまりない私とるー君の間にサッと小さな人影が入り……



パチンッ!!


気がついた時には、女の子に頬を打たれていた
痛い。たぶん赤い



「……なに?」

「この泥棒猫!!」


眉間に皺を寄せてギロリと睨み付けると、彼女は大きな眼から涙をボロボロ溢しながらなおも手を高く振り上げ



はっとしたるー君に羽交い締めにされて押さえられていた


「やめろシンシア!!アティは関係ないだろ!!」

「でもっ、でもっ、婚約を解消したのはこの子のせいなんでしょ!!この子がルビィさんをたぶらかしたからっ!!」

「……違わないが、アティは何もわるくない!!」



何この修羅場
元々あったイラつきに足して突然叩かれたことにより私の不機嫌は最高潮に達しようとしていた──────















「すまないアティ……迷惑をかけたな」

「なんで帰っちゃいけないのよ」


『御令嬢』はるー君が呼んだ車によって、謝罪の一言を言うことも無く去っていった
私はさっさと帰りたかったのにるー君が居てほしいと言ったせいで
口汚く罵られながらも、修羅場の全てを見届けさせられた

婚約者とか、お金持ちの人は大変だね




「……今日はずっと不機嫌なのはわかってるが…いまだけちょっと機嫌を直してくれないか?」

「…………はぁ、なんなの?」


急に顔を強ばらせて真面目な顔になったるー君をちゃんと見つめる
内心はやはり不機嫌のままだけど表面だけはちゃんと取り繕って─────



「今まで俺には婚約者がいたから、ちゃんと言えなかったんだが───それもちゃんと片をつけたから、その、」











「す、好きなんだアティ。結婚を前提に付き合ってく「やだ!!」」







狂おしそうに頬に添えられた手を勢いよく振り払い、ショックを受けるるー君をキッと睨み付ける


「なんでみんなして結婚とか婚約とか言うの!!私は、今のままが良いのに……」

「あ、アティ!?泣くほど嫌なのか…?」

「私はっ、お姉ちゃん達とお兄ちゃんとりりと、パパとママとるー君が居るだけで良いのに………お嫁に行っちゃうなんてやだよぉ」

「アティ?いや別に俺は今すぐにって話じゃ無くて、追々だな?」

「ひくっ、ふぇ……しろ姉ちゃんお嫁に行っちゃやだよー!!」

「は…?」


るー君にひしっと抱きついてわんわんと泣きじゃくる
昨日、お見合いに行った銀姉さんが
婚約して帰ってきた。来年には式をあげて結婚するらしい




うちから、出ていっちゃうらしい



昨日からずっと嫌で嫌でそのことが頭から離れない
離れないのにるー君まで結婚とかなんやかんの言う

もう悲しくて嫌で嫌で




そのままるー君の腕の中で泣き寝入りまでした

いつも優しくて、甘やかしてくれて
私を傷つけたりしないこの腕の中は家族のみんなと同じくらい安心出来た───────














『いつも悪いなルビィ君……アティが迷惑をかけて』

「いえ……なにかあったんですか?」

『銀姉さんが電撃婚約をしたんだよ。アティは人一倍甘えっ子で我儘だからな、家族がいなくなるのが耐えられなかったんだろ』

「そう…だったんですか。じゃあ俺タイミング最悪だったんですね」

『今は告白したらダメだったなぁ。もしルビィ君さえ良かったら今日は泊まって行ってくれないか?緑青も泊まりに行ってるしちび三人組が姉さんの婚約ですげぇ不機嫌だからアティだけでも任せたいんだが……ちゃんと仲直りもして欲しいからな』

「わかりました」



目元を腫らして眠りにつくアティの頭をそっと撫でる
気をきかせてくれたお兄さんが部屋から出ると『兄ちゃぁあああん』と幼い泣き声を上げた末っ子のりりちゃんがお兄さんにむぎゅっと抱きついてるところだった





タイミングの、問題だよな
俺は好かれてる筈だし求められてる筈だ

すべらかな髪の感触を味わいながら、折を見て改めて告白をしようと決めた











彼は知らない。
その後も姉たちの婚約や結婚騒動が続き数年は機会が無いことを







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