最近、りりが私に秘密の何かをしとるようだ。
「ゆ、夕霧!!ちょっとだけお散歩に行っても良い?」
「夕食までに戻れば構わないよ。どこに行くんだい?」
「え、えっと……まだ内緒なの!」
小さな包みを抱えて家を飛び出すアレに、声をかける間さえなかった。
正直に言うと隠し事をされるのは気分が良くない
『まだ内緒』はもう三日も続いていた
カタリ カタリ
大人げない?夫婦間で隠し事をされて苛つくのは当たり前であろう
興味が無い玩具ならまだしも、彼女は私の関心の全てを集める愛しい妻なのだから
「ゆ、ゆうぎり……怒ってる?」
「気分は良くは無いの。お前でも私のそれくらいの機微はわかるのかい」
あれから数日がたった
りりは毎日“散歩”と称してどこぞに遊びに行っていて私の苛つきもピークに達していた。
彼女にあたりたく無いし、何でも素直に話す彼女の珍しい秘密くらい守ってやりたい
大人としての体裁と、子供じみた独占欲が毎日ぶつかりあい
ついに今日はりりに自分で食事をとるように言ってしまった。
それは、りりが生け贄に捧げられてから初めてのことだった。
いつもは私の方から彼女に食事を与えていたから
「っ、神様ごめんなさいっ」
ふわり、と、花の香りを漂わせ
りりが抱きついてきた。涙目で見上げる幼い少女に自分はなにをしてるんだと嫌気がさす
骨は浮き出ないものの華奢な身体を優しく抱き締めて、そっと頭を撫でる
「すまない、ちょっと私も大人げないね」
「ううん、私が隠し事したからいけないの……喜んで欲しかったんだけど…あのね、神様、これ作ってたの。神様に喜んで欲しかっただけなの…」
りりがいつも持っていた包みの中から出てきた、血のついたちりめんで出来た小さな香り袋
どんくさい彼女なりに頑張ったのだろう。
血はついてるは、縫い目はぐちゃぐちゃで花びらも少しもれてる不恰好なそれは―――――
今まで捧げられた貢ぎ物の中で二番目に気に入った
『一番はもちろん、』
「ありがとうりり。こんな良いものを貰えて嬉しいよ」
「嬉しい?神様もう怒ってない?」
「怒ってないよ。さぁ、冷めてしまったが食事にしようか」
「はいっ!!」