ぱたぱたぱたぱたぱた…

…とたとたとたとたぼてっ、バシャン

(うう゛…)

あ、転ばれたのかな

ぱたぱたぱたぱたぱた…

再び立ち去る軽い足音に笑いがこぼれる
ただの風邪だから、そんな一生懸命にならなくても良いのに
けれど自分の方が重病みたいな顔をして甲斐甲斐しく世話をやいてくれる利虎殿が可愛くて何の文句も言えない










「來兎様、額の布を交換に参りました」

「ありが、ごほっ、ごほっ」

「ああ寝ていて下さい!!」

起き上がろうとするとタイミングよく咳が出てしまいさっと利虎殿に布団に戻される
結局待ちに待った彼女が来たのは先ほどの足音が聞こえてから大部たった頃だった
ひんやりと冷たい手拭いを額に置かれて心地よくて目をつむる

僕の傍らには、心配そうに見守る愛しい人

「お怪我は、ありませんか?先ほど転ばれたでしょう?」

「聞こえちゃいましたか…普段看病なんてしたこともされたことも無いから駄目ですね」
「無いんですか?」

「虎は弱味を見せるのを嫌いますから」


にこっと笑いながら、そっと僕の手を握る利虎殿の弱いところを見てるようで見てないなと思った
可愛らしい所をよく見てはいるが、弱いとこ……小さな子等に追いかけ回されてたのは置いておくと、弱味らしい弱味を知らなかった

彼女の弱いところも全見せて欲しいのに。ぎゅうっと強く小さな手を握ると空いてる方の手で優しく頭を撫でられる


「大丈夫ですか?」

「……利虎殿が倒れたら、僕が看病しても良いですか?」








ぱちぱちと目を瞬かせた利虎殿は







「看病してくれるんですか?」

ふにゃり、と僕が大好きなとろけるような笑みを溢した

喉を鳴らす音が聞こえてきそうなくらい喜ぶ彼女の後ろにピンッと立った尻尾の幻覚まで見える


弱味を見せることを嫌う種族の彼女が、僕に見せることを喜んで笑ってくれる

それはとても幸せなことだった





『幸せな病人』












「ごほっ、ごほっ、ごっ……『あ』

「ら、來兎様!?」


思わず声が嬉しさのあまり上ずった
喜んじゃいけない。人型を保てないほど彼が弱ってしまったと言うことなのに……

それでも真っ白なウサギの彼を見ていると抱きたくなる。そのふわふわな毛並みにもふもふしたくなる。というか凄くしたい

『利虎殿……』

「す、すみません」

『……いえ、寒いので抱いてくれませんか?一緒に寝ましょうか』

「良いんですか!?」


カジリと服の裾をかじられて布団の中に引っ張られる
願ったり叶ったりで大喜びで彼を抱いて暖かい布団の中にもぐりこんだ



結局、看病をしに来ながら私はいつものように彼に甘やかされてますますのめり込むのだ




















「長さま、お加減はいかがでしょ…………あらあら、寅の姫君も長さまも仲良しですねぇ」



兎を抱いて幸せそうに眠る少女とよりそう兎


そんな二人を見た兎の一族の女性は心が温かくなった。









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