それは私が何時ものように主様に絡まって、お仕事の邪魔にならないようにしてる冬の日のことだった



他の仲間たちや両親はもう冬眠していたが、私だけは主様と一緒にいたかったからべったりしがみついて離れなかった
だから、巳族で活動しているのは私と主様だけで
時折寒すぎてうとうとしながらも、それでも私は冬眠だけはしなかった









「ぐっ……っ、くぅ」

『!!』

バタンと、主様が寒い廊下で倒れた
慌てて手首から離れて主様の顔を覗き込むも、彼は苦しげに目をつむり凄く寒いのに汗をかいて唸っていた


どうしよう、どうしよう、主様が死んじゃう

どうしよう、どうしよう、




主様を助けなきゃ
その一心ばかりが募るけれど、たかだか20cm程度の体では大きな人型の主様は服を噛んで引っ張っても動かない

仲間たちはみんな春まで起きない


どうしよう、どうしよう、


そんな私の頭に思い浮かんだのは、いっつも『おくすり』で色んな仲間をたすけてくれる、どこかのひげもじゃさんだった







巳の領地はおろか、私は自分だけでは社の外にも出たことは無かった

でも主様がよく行くから、ひげもじゃさんのお家はわかる。
ここにいても主様、死んじゃうだけだから――――――














私は雪が積もる場所を寒くて寒くて眠くてくらくらしながら、必死にくねくねと進んだ
主様に引っ付いて行ったらすぐの道のりも
体が小さい私にとっては物凄い遠い道のりだった


寒い、体が冷たい
雪なんか嫌いだ、冬なんかきらいだ
はやく、はやくしないと、ぬしさまがしんじゃう
たすけて、たすけ―――――





「キャアアアアア!へ、蛇さん!?なんでこんな所で冬眠なんて…冷たい、し、死んでる…?ふーっ」


ふわりと
冷えきった身体に触れたぬくもりは火傷しそうなほど熱かった
顔だけ寒い空気に当てられながら身体全体を主様より細い小さな手で作られた密室に入れられて息を吹き掛けられて急速に暖められる

もぞり、と少しだけ動くと誰かがあたふたするのがわかった


「い、生きてる?っ蛇もどき!!緊急事態だからさっさと速く出てきなさいよ!」

ガンガン!!

「んだと馬鹿猫もどきが!!扉蹴んじゃねぇよ…って、お前そいつ…巳ん所のちっちぇのじゃねえか!おいどうした!!」

弱々しく目をあけると、そこにはひげもじゃさんがいた
助けて、助けて、主様を助けて―――――

動きにくい身体を伸ばして、差し出された彼の手にコツコツと頭をぶつける
けれど巻き付かない。速く、速く、主様のとこに―――


「…こんなちっちぇのが一人で雪んなか来るなんて自殺行為するなんて、あの神経質に何かあったろ。おい利虎、俺ちょっと巳の社見てくるからお前そいつ暖めてやってくれ」

「暖めれば、良いんですね?」

「ああ」


バッと駆け出したひげもじゃさんの後ろ姿を見て、ようやく安心出来て
助けてくれた人の指にくったりと身を投げ出した―――――私の意識はそこで完全に途絶えた

















意識が戻ると私はふわふわの毛布に包まれていた。
あったかい、気持ち良い、ふわふわ――――


『ああ、気づかれましたか?』


きょとり。
ふわふわのソレは私が今までで見たことの無い、黒と黄色の生き物だった



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