彼は言葉通り「悪」の一言に尽きた。生み出したものがそのように作り、また、そう定めた。
彼は自身が悪であるということ以外知らないし、恐らく知るつもりもなかっただろう。彼らに意思はなく、ただただ作り手の思うように動かされるだけなのだから。
新宿のアーチャー召還祈願
「私は彼に勝ちたかった。どうしようもない決められた道筋を、どうにかして変えてみたかった。それ故彼と私は利害が一致したし、だからこそなりふり構わない方法で君を誘い出したわけだ」
新宿のアーチャー、真名をモリアーティと名乗ったサーヴァントは、ただ淡々とそう述べた。それだけで私は彼が”記憶持ち”ということを理解する。
召還されて早々その言い草に、だまされた側の私は小さく笑う。どうせなら知らないふりすればいいものを、彼は開口一番記憶があることを言って見せた。もしかしたら、あの新宿での出来事は、彼の心に何か残すものがあったのかもしれない。
「それで、今回召還されてくれたアーチャーは、私に快く使われてくれるの?」
モリアーティが新宿で行ったことは、恐らく、カルデアのサーヴァントたちからはよく思われることはないだろう。正直死ぬような思いをしたし、もう一度同じ目に合うと言われたら全力で遠慮したい。
だがそれで、今、召還に応じてくれた彼を糾弾しようとは考えていないのだ。
だって応じてくれた。こちらの呼び声に。人理修復という理由もないのに。ただただ、マスターの声に。
「……責められるだけのことはしたと思っていたのだがネ」
「まあ、あの裏切りは許しがたいし、本当は一回くらい殴ってやってもいいかなって思ってたけど」
おや、という表情だ。やらないのかい、とばかりに目が細くなる。
「来てくれたから」
例えあの新宿で縁を繋げられたとしても、それが確実な召還へ結びつくとは限らない。どんなに呼んでもついぞ応じてはくれなかったサーヴァントだってたくさんいる。
「こうやって顔を見たらどうでもよくなっちゃった」
「これは随分な口説き文句、」
「パパなら可愛い娘を放っておかないでよね」
ああ、きょとんとした表情が懐かしい。本来ならば自分がやらないであろうことをやってしまった後の、あの不思議そうな顔。
「ハハ、ハハハハ、マイガール、君は」
一番最初にそう言ったのはあなただ、モリアーティ。私のアーチャー。
「ああ、そうだな。しかし私はただ悪を成すべきために生まれた存在だ。恐らくマスターには理解できない部分も多々あるだろう。勝利を望んだ時に、君が良しとしない方法だって簡単に取ってしまうだろうね」
「うん」
「それでもマスターは私を使うのかい?一度は裏切ったこの私を、君はまた懐にいれるつもりなのかな?」
「うん」
目を見つめる。まっすぐ。
「正義の味方は案外楽しかったんでしょう?なら、そのままのアーチャーでいいよ」
善性が目覚めるとは思わない。彼は悪を成すために作られたのだから。
頭を使い人を使い、証拠も残さず犯罪を成立させていくモリアーティ。それがこのアーチャーだ。
「最悪、私の命が危なくなったら他のサーヴァントたちが助けてくれるだろうし」
「さすがの私も、自分が消える消えないの瀬戸際になれば、」
「本当?」
「まあ、ウン、」
言い切れないのが彼らしい。でもそれで十分だ。彼は私に嘘を押し通すのが難しい。それでいい。
「来てくれてありがとう」
「……私も、マスターに会えて嬉しいよ」
召還陣の中のモリアーティへと手を伸ばす。ここに来たからには私のサーヴァントだ。
「ふむ、ところでこの部屋の外に数人待ち構えているようだが……」
「ああ、あれね。うちの正義の味方ガチ勢」
「?」
「あっちは新宿でのこと、全然許してないみたい」
「!?」
にこにこしながらそう告げれば、アーチャーは大げさに肩を落とす。
「みんな待ってる。行こう、アーチャー」
カルデアでの時間はきっと、退屈なものではないと思うから。

...end

欲しい。アラフィフ欲しい
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -