「夏服になったら不便だね」
「余計気をつけなきゃいけないしな」
「私、暑いのより寒い方が好き」
「……そういや俺の炎って、暖取れんのか?」
「試してみようか。案外便利かも」
「おお、焚き火とかできそうだもんな!」
「兄さん、葵先輩!冗談でも止めてください」



計画開始



「そういや先輩って、夏休みどうすんの?」
聖書を読むのに勤しんでいた燐が、ふと顔を上げて尋ねてきた。そんな彼に雪男から鋭い視線が飛んだが、全く気がついていないようだ。
「んー実家に戻ろうと思ってるけど、どうして?」
「その呪い、今は出るたびに消してるけど、帰るんなら出来なくなるだろ。どうにかしてこっちいられねーの?」
衝撃的な言葉だった。まさか夏休みも一緒に、そんな風に言われる機会が来るなんて思ってもみなかった。
燐はきっと私を心配しているのだろう。呪というのはなくならないものだと教えてあるから、余計に。
その気遣いに胸を打たれながら、一応立てていた計画を双子に話すことにする。理事長に話は通してある。というか、取引を持ちかけられた。
私が現在預かっているものを、封じたままの姿で見せて欲しい。その代わりある程度の自由は認める、と。
私の預かり物は封はしてあるが、持ち出し禁止というわけではない。元々人が使う道具になるはずのものだったのだから、問題はなかった。ただ、開けてしまったら大変なことになるけれど。
そんな訳で、私はその取引に応じた。預かり物を持ってくる代わりに、ある程度の自由を。
「実家には一度、その預かりものを取りに行くの。そしたら後は、こっちに居られるよ」
「おお!じゃあ夏休みは思いっきり遊ぼうぜ!」
それを聞いていた雪男がほんの少しほっとした表情をした。それが少し気になったけど、それ以上に燐の反応が嬉しい。
「燐、尻尾ぱたぱたしてる」
「掴むなよ!?」
「……」
そう言われてもと無言になれば、燐はさっと尻尾を隠した。実は一度、我慢できずに手袋のままで掴んでしまっている。
その際、猫じゃらしの如く動くのが悪いと思います!と主張したら、燐と雪男両方に怒られた。弟くんは結構ブラコンです。
「冗談だよ、冗談」
「冗談に見えねー」
尻尾を無事にシャツの下に隠した燐は、それでも笑っていた。
「楽しみだな!」
「兄さん、楽しみなのは分かるけど、夏休み前には候補生認定試験があること忘れないでね」
雪男の言葉に燐ははっとした顔をして、私は何のことか分からずに首を傾げる。
「認定試験?」
「祓魔師の候補生のことです。認定試験に合格して、ようやく祓魔師への第一歩が開けます」
雪男から説明してもらって理解する。けれど私には余り関係ないことだ。けれど弟くんは続ける。
「そして候補生は、祓魔師の任務の補佐をすることにもなる。僕もそうでした」
「ほ〜ついに俺も祓魔師デビューか!」
浮かれる燐を尻目に、弟くんの言葉を良く考えてみた。こうやって言うのは、何かしら理由がある。少なくとも私はそう思ってる。
認定試験があるから浮かれるな。任務の補佐があるから……。
「え、夏休みもそれ、あるんじゃないの?」
「葵先輩は、全部言わなくても理解してくださるので助かります。兄さんと違って」
雪男は眼鏡を掛けなおしながら言った。燐は微妙に馬鹿にされたことを憤慨していたが、正直私も褒められた気がしない。
ついでにこれは牽制か。夏休みも遊んでいる暇はありませんよ、という。
「な、何てこった……」
たくさん遊びたかったのに、と小さくつぶやけば、燐はそれに心揺さぶられたようだ。高校の夏休みに遊ばなくてどうする。二人の気持ちはシンクロした。
お互い肌に触れないように肩を組む。これもなかなか慣れたものである。
「まあ、一番手っ取り早いのは、葵先輩も塾に入ってしまえばいいんですけど」
「本題はそこか、弟くん」
最近雪男はこういう勧誘が顕著になりつつあった。理事からのアプローチは初めの一回と取引を持ちかけられたとき以外にないから、頼まれているのかもしれない。
だが私はそう簡単にその話題への移行を許したりはしない。答えは相変わらずノーには変わりないからだ。命を懸けてまで、好きではないものにはなりたくなかった。
「……私、今週末からこの部屋の隣りに入ることになったから」
「おお!」
「え、どういうことですか!?」
双子は理事長から、全く話を聞いていないようだ。あの人いい加減なんだかきっちりしてるんだか分からない。謎である。
「さっき言ってた預かり物。呪の元を持ってくるなら、普通の生徒と同じというのも問題でしょうって」
「だからって、ここは男子寮ですよ?」
雪男の心配もそこらしい。普通なら、呪いの方に気を取られるだろうに。双子揃って優しいことだ。
「理事は問題ないって。鍵も特注してくれるみたいだし……信用されてるってことだよ、弟くん」
にやにやしながらそう言ってあげると、雪男はがくりと肩を落とした。きっと頭の中では、気苦労が増えたとか思っているのだろう。
「まあ、なーんか理事長のいいようになってる気がしないでもないけど」
「そうか?」
肩を組んだままの燐には、私の呟きが聞こえたらしい。
「そうじゃない?選んでるのは確かに私なんだけどね」
「でも、葵先輩はそれでいいんだろ?」
そう言われてしまえば頷くしかない。私は、これでいい。これがいい。
祓魔師と多少関わることになったとしても、もう引き返せないだろう。
「うん、もちろん」


私には、燐の側が心地いい。



fin...


いろいろ動き出す。
20110529
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