「やっぱり、祓魔師は遠慮しておく」
そう伝えれば、燐はひどく残念そうだった。そんな表情をさせるのは意に沿わないが、こればかりはどうしようもない。
祓魔師とはチームワークが大切なのだろう。悪魔がどうにかなったとしても、私には呪がある。燐に青い炎で浄化してもらっていても、大きな問題だ。
一緒に戦う相手が、私に恐怖を感じるかもしれない。それではどう考えても悪魔に対抗は出来まい。
かと言って一人で戦えと放り出されても困る。絶対に無理だ。牽制だけで終わりそうな気がする。牽制になればいいが、怒らせて興奮させました!ではただのトラブルメーカーだ。
「それは、嫌いって意味でか?」
「そこはまあそのうち折り合いが付くとしても、問題は山積みだから」
「よし、なら雪男の依頼に着いていこうぜ!」
燐、私は何故そうなるのかさっぱり分からないんですが!



くろのてぶくろ



乗り気ではなかったのだが、燐に押し切られてしまった。どうやら時々こうやって弟くんと任務に出掛けているらしい。
ほとんど強引に付いて行くだけのようなのだが、迷惑ではないだろうか。
「……もう今更ですよ。それに、二人もいるのに気がつかなかった僕も僕ですし」
私の考えていることを読み取ったのか、全くずれの無い解答をもらった。燐、君の弟はエスパーか何かなのだろうか。
「雪男は器用だからな」
「器用というだけで頭の中覗かれたら、たまらないんだけど」
「今一番憤慨しているのは、僕だってこと忘れないでね」
私たちは弟くんの言葉に顔を見合わせて、すぐさま謝った。この子は怒らせない方がいいと思うのは個人の見解だが、考えていることは燐も同様だったというわけだ。
「まあ、特に危険な依頼でもないだけど、勝手なことは控えてください。特に兄さん」
「どうして俺だけ!」
いつも勝手な行動してるんじゃないの?とは言わなかった。図星を指したら可哀想だし、弟くんの矛先が燐に向かっている今、わざわざこちらへ注目を集める必要は無い。
「それと桐野先輩、そろそろ名前の方は覚えてくれましたか」
だが、あっさりとこちらに矛先が来た。しかも全然関係ないことで。
こうやって改めて言われると、さすがの私もいつもと同じく弟くんとは呼べない。渋々と名前を口にする。
「……奥村雪男、くん」
「雪男で構いません」
「なら、私も桐野じゃなくて名前か、先輩ってだけで呼んでよ。知ってる人は知ってるんだから。桐野って」
普通だったら何ともない名字でも、祓魔師といれば桐野を知っている人間にどう勘繰られるか分からない。関係なければ否定できるが、私は何もかも飲み込んで嘘はつけない。
すると弟くん、改めて雪男も思うところがあったのだろう。そうですね、と小さく頷いた。
「でもおかしいよなぁ、わざわざ預かってくれるやつを嫌うってのも」
そのやり取りを見ていた燐にそう言われて、私は苦笑するしかない。こうやって素直に感じたことを言ってくれるのは、なんだかくすぐったく感じる。
そして唐突に、言おうとしていたことを思い出した。
「あのさ、見て見て。燐に触れない対策考えてきたの」
双子はきょとんと私の手を見た。
「手袋?」
「ああ、確かにそれなら触っても反応は起きないでしょうね」
手にはめているのは、黒い手袋だ。出来るだけ薄くて、丈夫なものを探してきた。
燐に直接触れないのは、一番最初の接触で分かっている。でもその後、彼は何度か服越しに私に触れているのだ。
触れるなんて生易しいものではなく、がっちり掴まれたことだってある。
「本当は白の方が可愛いなって思ったんだけど、そうするとすぐ汚れちゃうから」
「でも黒も格好いいじゃねーか」
私と燐で、恐る恐る手を出し合う。どうにもならないと分かってはいても、こうやって意識して触るとなると緊張するものだ。
「よし、いくよ」
「おう」
「……」
「……」
「燐からきてよ!」
「え、俺から!?」
どう考えても、被害の出る方から触るべきだろう。覚悟というか、そんな類の気持ちの準備だって絶対に必要だ。
「……じれったいですね」
そんな様子を眺めていた雪男が、私と燐の手をそれぞれ掴み、ばちっと合わせた。無理矢理。
「!?」
「うおっ!!」
声を上げて飛びのいたのは燐だ。雪男の手は簡単に振り払われている。私は飛びのかれたことに驚いて、手を掴まれたままということにしばらく気がつかなかった。
「兄さん……」
私の手を丁寧に下ろしてから咎めるようなその弟くんの声に、今更思い当たる。
そうだ、怖くないわけないのだ。自分を傷つけるかもしれないのに。私だってきっと怖い。
「いや、その、私が悪かったよ。ごめん、燐。一番最初に触ったの、他でもない手だもんねぇ」
馬鹿だ。もう少し考えれば良かった。
「ばっ、違う、そうじゃなくて、だな!」
燐は焦ったように声を上げた。その頬は少し赤くなっている。
「その、嫌とかでは、」
だがその先が続かない。
雪男と二人で顔を見合わせて、それから燐に続きを促した。
「わ、笑うなよ。絶対に笑うなよ」
そう何度も牽制してから、燐はぼそぼそと理由を話した。
「じょ、女子と手ぇ合わせるとか、そんな機会滅多にないだろ……」
衝撃だった。理由が可愛くて、笑うとかそういう次元ではなかった。もうこれは悶えるレベル。
「に、兄さん……」
雪男は雪男で、なんだか複雑そうだ。確かに兄弟のこんな姿見てしまったら、どう反応していいのか分からない。
私はその燐の姿に胸を撃ち抜かれて、うっかり口に出してしまった。
「やだ、かわいい……」
「かわっ!?」
この年頃の男子は、こうやって言われることを良しとはしない。燐も例に漏れなかったようだ。
「可愛いんですか、これ」
辛辣な言葉を吐く雪男はスルーし、私は飛びのいた燐を追いかけた。今度は逃げない。
黒い手袋をした私の手が燐の手を取る。そこでお互いの視線が合って、何だか照れてしまう。
でも、私には伝えておかなければならないことがあった。
「燐、ありがとう」
こうやって触れることで、私はきっと救われている。今まであったことはなくならないけれど、それを凌駕していく勢いだ。
「……俺も葵先輩に感謝してること、たくさんあるよ」
直接触れられなくても、関係ない。貰っているものは沢山あるのだから。




fin...


「そういえば雪男って両方に触れるんだよねー……なんかずるい」
「え?」
20110525
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