「……先生」

目の前の人をじっと見つめながら呼んだ。
だが彼はひどく困ったように頭を掻いて、返事をしてくれない。

私は改めて「先生」を上から下まで眺める。

まず髪。
これはいつも通りだ。
銀髪にくるくるの天パ。
ふわふわと勝手に様々な方を向くそれは、相変わらず。

次からちょっと変化あり。
眼鏡を掛けていない。
確か伊達とか伊達じゃないとかいつかクラスでくっだらない論議が出たが、結局分からず終いだった。
最後は先生の「どっちでもいーじゃん」で片が付いたのだ。
ちなみに私は両方好き。

そして最後に服装。
普段の白衣ではなく、着物らしきものを羽織っている。

「先生、それ、新しいファッション?」

「だからさぁ、絶対人違いだって」

話し方もいつもと同じ。
私はそこでふと思い立って、彼の首辺りに顔を近付ける。

「ななな、何しようとして……」

「しない」

「は?」

「煙草のにおいがしない。禁煙でもしたの?あんなにかたくなに嫌がってたのに」

授業中でも構わず吸っていた煙草(時々飴)。
その匂いが全くしない。

以前禁煙をすすめた時には、ぜってぇ無理と宣言すらしていた。
おかしい、本当におかしい。
あの白衣に染み付いた匂いも、こんなに簡単に取れるとは思えない。

「お嬢さん、ちょ、聞きなさい」

「お嬢さんとかやめてくれる?キモい」

「キモいってひど!」

ショックを受ける彼を放り、私は改めて辺りを見渡した。
どこか知らない公園だ。
いつの間に移動したのだろう。
しかも私、ベンチで寝ていたみたいだし。

「ここどこ?」

「いや、だから人の話を聞こうか」

「高校の近く?」

「こうこう?何それ」

何だか嫌な予感がする。
見た目は全く同じなのに、先生ではないと言い張る彼。
どうやら私のことも知らないらしい。
双子か何かだろうか。

さすがに本人が、受け持ちのクラスの生徒であり一応恋仲である私を忘れるのは有り得ない。

「あのさ、勘違いしているようだけど」

先生に似た彼は、普段生徒に言い聞かせるようにゆっくり言った。

「俺は坂田銀時。お前のことは全く知らない。ついでに先生っつー職業でもないからな」

私はそれに、ちょっと頭を抱えた。
どうしよう。
銀八にしか見えないんですけど。




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20080418
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