「見張り……でもそれをどうにかすれば、」
「そうです。見張りです。しかもその映ったものは他の人と共有できます。だから見た奴抹殺と言うような考えは捨ててくださいね」
「……きょうゆう」
佐助さんは段々情報を処理するのに限界が来ているようだった。分からないことを無理に理解しようとしているのだから、それは仕方ない。でもやってはならないことだけは教えておこう。
「とにかく、衣服は二着ほど用意します。それは決定事項です」
「……あんたがそう言うなら、それに従うよ」
渋々ではあるが、彼自身逆らえる立場ではないと思っているのだろう。私の言葉に頷いた。
それを確認してから、食の話に入る。これで基本的な生活の話は終わりになるわけだが。ある意味これも結構重要だ。
私は戦国時代の食事なんて分からない。本当に何も分からないのだ。これは聞くしかないのだが、全てのリクエストに答えられるはずもなかった。
「で、最後は食事の献立の話です」
「そう、それなんだけど」
お、意外と食いついてきた。
「さっきの食事といいあの冷たい箱の中といい、どうなってんの?」
「どうなってんの、とは?」
「米だって普通に出されたし、卵だって数があった。あんたは一人で暮らしてるみたいなのに、一体何をどうやってあんなもの手に入れてるの」
言われたことを改めて考える。この言い方は、多分アレだ。価値の違いに戸惑っている。というか、卵って高級食材だったのだろうか。
「ああ、あれはですね普通の状態です」
「?」
「私の主食はお米……白米が普通で、卵も簡単に手に入ります。これはもし気になるなら後でお話しますね。あ、そうだ。朝食は問題なかったということですか?」
こくりと頷かれた。けれど思い出したように付け足される。
「あ、あのさ。卵の横にあったのって、獣の肉……だよね」
「獣……言い方で印象が変わりますね。その通りです。あれ、食べたりしませんか?」
「俺様はあんま聞いたことない。あと、その、肉って体臭が」
昔の人って肉食べなかったのだろうか。じゃあ魚?でも魚なんて毎日手に入るものではないだろう。やっぱり野菜が主食なのだろうか。……で、どうして体臭?
聞きたいことが顔に出ていたらしい。佐助さんは呆れたように口を開いた。
「俺様忍って言った」
「全然理由になってません。少なくとも私には分からないです」
「……忍って、今、いないの?」
声の質がほんの少し変わった。感情の変化なんて私には分からない。でもこれは、何かに絶望するような言い方だ。
けれど私は、嘘はつけない。何を言うことで佐助さんを傷つけるか分からないが、その場しのぎで物を言ってしまっては信用に関わる。
「いません」
「必要なくなったってこと?」
佐助さんは、必要として欲しいのだろうか。
今の時代に忍がいなくなった理由なんて分からない。でも良く考えてみれば、必要なくなったというより変化していったのではないだろうか。だってスパイとかあるし。SPみたいな護衛もある。
「……それを答える前に、忍って何やるんですか?」
「え、そこから?」
「そこからです」
「い、色々やるよ。情報収集に操作。侵入して調べたり」
「偉い人守ったり?」
「戦忍は戦いもする」
「あー忍者はいませんが、それに代わるものはいますって感じでしょうか」
代わるもの、とは違う気がする。少し考えて、もう一度。
「なんて言ったら良いのかな。佐助さんの言う仕事をやってる人はいるんですが、それは忍者とは呼ばれてなくて……う、うーん」
「……なんか悩ませて悪いね。でも、何となく言いたいことは分かった気がする」
うまく説明できなくてグルグルし始めた私に、佐助さんは呆れて、けれど穏やかにそうフォローしてくれた。その言葉からして、どうやら考えていることは多少伝わってくれたようだ。安心安心。
「あ、話はずれましたが、肉系は避けたほうが良いってことですね。魚は平気ですか?」
「うん、まあ、」
「お肉もそんなに量が多くなければ大丈夫?」
「……どうしても駄目になったら言います」




衣食住について話した後、私は買い物に出掛けた。会って間もない人を部屋に残していくというのはかなり抵抗があったけれど、この格好のままつれて歩くわけにもいかない。
それに佐助さんは無茶をするようにも思えないし、とりあえずさっきの話も納得してくれたはずだ。大人しく待っていてくれるだろう。
服と食料。思いつく限りの日用品を買って帰る。
……そうだ。これを着てもらう前に、お風呂の入り方も教えないといけないんじゃないだろうか。前途多難だ。
でも、一番負担が掛かっているのは佐助さんだろう。何たって、生きていた時代自体が違うのだから。



fin...

説明だけで一苦労です。
20111004
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