「高野さん!!」
元気良く手を振って駆け寄ってくるのは、最近知り合った日向だ。今年の新入生で私の後輩に当たる。
隣にいた友人たちがくすくす笑ってその様子を見ていた。日向が微笑ましいのと、私がぐいぐい押されているのを見ているのが面白いのだろう。
「高野、センパーイ!!」
私に会って何がそんなに楽しいのか、跳ねるみたいにして近づいて。まあ可愛いので問題はない。
「どうしたの?」
目の前まで走ってきたのはいいが、用事は何だろう。こちらは特に心当たりはないのだけれど。
すると日向ははっとして考え込んで、そうして一通り悩んでひとこと。
「……高野さんがいたから、」
「あ、あのねえ、」
自分よりも少し背の高い日向は、どこまでも真っ直ぐだ。感情も曲がることなく、しなやかで健康的。うらやましい。素直さが凶器になるなんて、彼に会って初めて知った。
ちょっと手を伸ばして髪を撫でてやると、本当に嬉しそうにする。こうやっていると小型犬みたい。
「ジャージってことは、まだ部活中でしょ?いいの?」
時間が許す限り構ってあげたいのはやまやまだが、もし部活の最中ならそういうわけにもいかないだろう。菅原曰く、澤村は怒らせると怖いらしいし。そんな恐ろしいセンパイを、可愛い日向が怒らせるようなことは出来るだけ回避させたいのだ。
「!!あ、やべっ」
日向もそのことに気がついたのか、来た道を慌てて戻って行った。けれどそのまま一直線というわけでもなく、途中振り返って輝かんばかりの笑顔を向けてくる。
「日向、前向いて走って!前!」
危なっかしくて見ていられない。ジェスチャーで前方注意を促しても、日向はもっと手を振ってくる。構っているわけではないのだけれど。
しかし心配はいらなかったようだ。もともと日向は運動神経が良いほうだし、それに加えて勘も働く。壁や人間に正面衝突はしないだろう。多分。……恐らく。
姿が見えなくなって、ようやく力を抜くことが出来た。ほっと息をつくと、隣りでずっと様子を見ていた友人たちがにやにやしてくる。
「いやー、カナ、ずいぶん絆されたねぇ」
「絆されたって、」
「だって一番最初はドン引きだったじゃん?」
「そーそー、日向クン、結構初めっからあんな感じだったし?」
誰だって初対面であんな高テンションでキラキラされたら引くと思う。部活の先輩であるはずの菅原でさえも、少しぎょっとしていたようだった。
「……そりゃ初めはそうだったけど、日向、そういうの超えてくるんだもん」
純粋な生き物がぶつかってくるのは不快ではない。日向はただ好意だけをその身体に詰め込んで走ってくるのだ。そんな後輩を邪険に出来るものならしてみろ。一日は確実に悩む。
それに日向は可愛いだけじゃない。バレーボールをしているときはかっこいいし、真剣な表情は普段の「後輩」が鳴りを潜める。ガタイの大きなバレー部員たちに囲まれている間は"可愛い"や"小さい"が目立ってしまうけど、それを知っているのは少数だけでいい。
「あーあ、あんたと日向クン見てると、年下も有りかなって思えてくるから怖いわぁ」
「付き合ってるとかじゃないし。純粋に先輩後輩です。さて、日向には近づかないように注意してこないと」
「カホゴ!!」
騒ぐ話の途中で、視線が第2体育館へ向かう。元気な後輩ががんばっているのを想像して、心の中でエールを送った。


...fin

日向が輝く場所には極力行かない。もう、行けない。私が彼を見ていられるのは、本当に短い間だけだから。
20140629
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