「私が欲しいのは、こちらのお店のマグカップになりまーす」
幼馴染のクロと研磨を連れてやってきたのは、とってもファンシーで可愛い雑貨屋だった。二人はその店の出で立ちに絶句しているらしく、ほんの少し口を開いて固まったままだ。
普段ならば「冗談はよせ」「バカ言うな」という暴言及び強めのでこピンを頂きそうなものなのだが、そんな心配はいらない。だって今日は私の誕生日だ。比較的我侭が通る日だと認識している。
「……カナ、お前まさか俺達にここに入って買えって言ってんじゃないだろうな」
「クロ、たぶんカナは本気だ」
赤いジャージを着た、背の高い男子二人。しかも片方は金髪で、もう片方はちょっと悪そうな顔をしている。そしてその横にいる笑顔全開の私。
「研磨くん正解です。私は結構本気で言っています」
「カナ思いっきり楽しんでるな?」
でこピンは来なかったが頭は掴まれた。普段バレーボールを操っている手が、少し強めに握ってくる。
「痛い痛い」
「ニヤニヤすんな」
だがクロの言っていることは当たっていた。このお店のマグカップが欲しいのは本当だが、この二人がこの可愛いお店に入って買ってきてくれるということに意味があるのだ。
「……ダメ?」
断らないとは思う。毎年三人の誕生日はやっているし、そこまでの無茶振りをしている意識はない。
「おれはカナがそうして欲しいならいいけど」
相変わらずのローテンションの研磨は、一番最初の衝撃からそう時間もかからずに冷静になったようだ。こちらのおまけである意図(二人の入店)にも気がついているようで、仕方ないなあというように口元を緩めている。
「研磨、お前はカナに甘すぎだ」
しかしクロのほうはあまり乗り気ではない。ちょっと難しい顔をして、店の中を覗いている。
「……でも一番カナに甘いのはクロでしょ」
「そーそー」
「お前が言うな」
「あだっ」
今度こそクロにでこピンを頂いた。痛い。研磨はおでこをさする私に笑って、何の前触れもなく手をとった。
「へ、」
「でもおれもさすがにクロと二人で入る気にはならないから、カナも一緒ね」
「え?」
「そりゃいい考えだ」
研磨の行動に触発されたのかは分からないが、何故かクロも反対側の手を握る。息ぴったりで両腕を上げられて、完全に浚われた宇宙人状態だ。
「ちょっとぉ!?」
「よーし、このまま入るか!」
「賛成」
先ほどのためらいは一体どこへ行ったのだろうか。クロも研磨もあっさりと一歩を踏み出していく。
「ええええ、待って、これは恥ずかしい!!」
騒ぐ私に手を引く二人は振り返って、笑った。
「主役がいないとはじまらねーだろ」
「今日だけは目立つの我慢してあげる」
...fin
男子二人を全く縁のなさそうな可愛い雑貨屋に連れて行くとどうなるか。
結論:研磨はギリギリセーフ(何故か溶け込む)。クロはアウト(女性店員に捕まる)。
20140623