小さなおにぎりを握って与えると、小平太くんは目を輝かせてそれを食べ始めた。
「いろ、いっぱい!」
お弁当用に何種類かのふりかけを買っておいて、本当に良かったと思う。こんなに喜んでもらえるなら、手間を掛けて作った甲斐がある。
「うまい!!」
むぐむぐ口の中に詰め込む小平太くんに気を配りながら、私も自分のおにぎりを食べる。空っぽの胃の中が少し落ち着いた気がした。そうしてお茶を一口飲んで、改めて目の前の小さな生き物のことを考えることにする。
小平太くん。男の子。歳は不明。名字も不明。どこの子かも不明。どこから入ってきたのかも分からない。ついでに夢じゃない。
「あやめ、はい」
ぼやっと考え事をしていたら、小平太くんにおにぎりを差し出された。じっと見ていたせいで、どうやらおにぎりが欲しいと思われたらしい。何ということだ。
「え、あ、大丈夫だよ。小平太くんが食べちゃいな」
「おれの、ほしくないのか?」
「謹んで頂きます!!」
寂しそうにいわれてしまえば、食べないなんて選択肢はコマンドから消滅した。食べる、美味しく頂く、口の中に突っ込むの三択だ。
すると小平太くんは楽しそうに笑って、あーんという掛け声と共に口元まで持ってきてくれた。きゅんとしつつそれに答えると、おにぎりが勢い良く口に突っ込まれる。
「ぐっ」
「うまいか?」
「う、うん」
子どもようにと小さく作っておいて、本当に良かったと思う。出来る限り上手く受け取って、ご飯をかみしめる。小平太くんはそれを見届けると、残っていたおにぎりへ手を伸ばした。
おいしそうに食べる姿は本当に可愛らしい。けれどこれからどうしよう。警察へ行って事情を話したら信じてくれるだろうか。
「朝起きたら知らない子どもが一緒に寝ていました。捜索願は出されていませんか?」どう考えても無理だな。
そんなことを悩んでいるうちに食べ終わったようだ。両手をぱちんと合わせて、ごっそさまでした!と食事終わりの挨拶をする。
しっかり言えていないところがまた可愛い。
何故か期待したようにこちらを見上げるので、私も小平太くんと同じように「ごちそうさまでした」と手を合わせる。
「おんなじ!」
「う、うん、同じだねえ」
何が嬉しいのか一通りはしゃぐと、どーんと私に体当たりしてきた。正直、相当痛い。子どもなのに勢いが有りすぎて、変なところにぶつけた。さっきのしがみつく力といい扱い方を気をつけないと、お互い怪我をしてしまいそうだ。
「あやめ、ねむい」
「さっき起きたばっかりなのに?」
「うん、ねむいー」
体当たりして抱きついてきた格好のまま見上げてくるから、恐ろし可愛い上目遣いである。まさか計算してやっているわけではあるまいな。末恐ろしいぞ。
しかしそこで気がついたことがある。
「あ、小平太くん、手が汚れてるよ」
おにぎりを手づかみで食べさせたのだ。ご飯でべたつくのは当たり前である。
私の服は掴まれたせいで既にその被害に合っているが、子どものやることだし洗えば落ちる。そこはとくに注意せず、洗面所へ向かった。
「きれいにするのか?」
「そうそう。でも小平太くんの背じゃ届かないから、ほいっと」
うまく脇を抱え上げて、洗面台へ向かわせる。小平太くんは持ち上げられたことが嬉しいのか、楽しそうに笑っている。
「きれいになった?」
「なったー!!」
「じゃあこれで拭いてね」
「はーい」
元気な素直な返事が本当に可愛い。
白いタオルで手を拭き終わると、まん丸な目で私を見た。
「あやめもいっしょにねよ?」
断ると言うコマンドなんて以下略。



散々寝たはずなのにいつの間にか眠ってしまった私は、起きたら小平太くんがいないことに気がついた。胸の辺りにこれでもかとしがみついていたはずなのに、きれいさっぱり存在が消えてなくなってしまっている。夢だったのだろうか。
「疲れてんのかな」
頭を掻いて、なんとなしに着ている服の裾を触る。
「……夢じゃないよねえ」
そこには小平太くんに抱きつかれた時についた、おにぎりに使った米がカピカピに固まって付いていた。


...end

ご飯。ハムスターみたいに頬張ったら、行儀は悪いのに可愛くってどうにかなりそうである
20130521
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