この実習が終わったら、また桐野さん。いやあやめさんに会いに行こう。きり丸と約束したバイトの話もある。
ここのところ補習や任務で会えなかったから、軽くお土産でも持っていこうか。身に着けるものがいいか。それとも食べ物がいいだろうか。きっとあやめさんなら何でも喜んでくれるだろう。


だからこの場は、何が何でも生きて乗り切らなければ。


「おい!八左ヱ門!」
「行け!殿(しんがり)は俺がやる!!」
指笛を吹けば答える自分の手足たち。大丈夫。絶対に、生きて帰る。
一瞬足を止めかけた雷蔵を、三郎が促した。その表情は何を考えているか分からない。けれどこの時に人の思考を読むことが出来たら、俺はきっと止めていただろう。
あやめさんには、忍の世界を出来るだけ知って欲しくないのだ。……そういう自分は、こんなにも進んで関わっているというのに。


...continue


「三郎!どこ行くんだ三郎!!」
自分を呼ぶ雷蔵の声がする。当たり前だ。八左ヱ門を殿に置いて、私は今、学園でない場所へと走っていた。
どう考えても、殿なしで撒ける相手ではなかった。そして殿が無事にすむ可能性なんてほとんどなかった。
八左ヱ門がその役を請け負ったその瞬間に、ふと浮かんだのは真剣なあの女の姿だった。
「大切だもの」
その言葉に偽りがないのなら。八左ヱ門の内側に入ったその手腕を、もう一度見せて欲しい。疑った人間に頼むことではないのは分かっている。もしかしたら何の意味もないかもしれない。でも学園へ向かうその時間も惜しいのだ。
だから。
「桐野あやめ!」
闇の広がる夜に、私の声は良く響いた。
20130422
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