「お久しぶりです、桐野さん」
茶屋でお団子を頬張っていたら、声を掛けられた。視線を上げればそこには、久しぶりに見る竹谷くん。突然の彼の登場に私は一瞬お団子を喉に詰まらせかけるが、すかさずお茶を差し出されたお陰で窒息は免れた。
「落ち着いて食べてください」
「う、うん。……竹谷くん、久しぶりだねぇ」
穏やかに笑う竹谷くんに、自然とこちらの頬も緩む。
「俺は、久しぶりって感じがしないです」
竹谷くんは笑顔が似合うな。
「学園で頻繁に桐野さんの名前や様子を聞く機会がありましたから」
穏やかに笑う、
「しかも色々な学年から」
おだやかに……、
「何をしているんですか?」
先生、竹谷くんの目の奥が笑っていません!
「あ、や、なんかこう、結構関わる機会があったというかなんというか」
上から見下ろされて、思わずおろおろしてしまう。怒らせたのだろうか。疑われているのに関わりすぎたことや、もしかして、虎の一件で七松氏がなにか。とにかく心当たりがありすぎて、何を謝っていいかが分からない。
「……怒ってはいないですから、」
その言葉に一瞬はほっとするも、すぐに別の可能性が出てくる。
「あ、呆れてる?」
「呆れてもいません。ただ、その、心配はしました」
言いよどんだ言葉と逸らされた視線。竹谷くんは私の隣に座って、まっすぐ前を見た。
「七松先輩には二回も遭遇していたりするし、どうも一年は組とトラブルに巻き込まれたようだし。土井先生がこぼしてました。相当迷惑をかけたんじゃないかって」
その向けられた視線に言葉を詰まらせる。迷惑を掛けたというか掛けられたというか。
「それに、最近きり丸の視線が妙なんです。何かを言いたいけど、言いかけてやめたり」
おおう、そうだ。きり丸くんには特に尋ねられることもなかったから、すっかり忘れていた。いやほら、土井先生に(色々なことが)ばれてないかとそればかりだったので。
彼は私が小さくなったのを知っていて、魔法も花を咲かせるものも見ている。というか、この姿に成長しているのも目の当たりにしているし。
「そ、それは私が原因、です」
「……何かあったんですか?」
口がその出来事を語るのを拒否している。しかしどうせ、きり丸くんと何かあったのは知られているのだ。それにきり丸くん自身にも、秘密を共有する相手は必要かもしれない。私が内緒と言っていたのを、彼は律儀に守ってくれているようだから。
「小さくなりました」
「?」
「一年生より少し小さいくらいかな。それでちょっと色々あって」
「す、すみません。俺の理解力が足りないだけだと思うんですけど、え?」
竹谷くんは混乱しているようだった。私の言葉を何度か繰り返して、首を傾げている。まあ当然の反応だろう。
「物凄く簡単に言うと、一桁の年代に退化」
「え、そんなことも出来るんですか?!」
ぐっと身を乗り出してくる竹谷くんを宥めて落ち着かせる。出来るのかと口にする辺り、彼には魔法に対しての耐性は結構付いてきている気がする。
「あ、私自身では無理。でも、そういう魔法薬があるんだよ。ある一定の年代まで、その人の時間を戻す薬が」
「おほー、凄いですね……ということは、その小さい姿のときに、桐野さんだとばれたということですか?」
「まあ概ねその通りです」
誘拐犯とか土井先生の件(くだり)は話さなくていいだろうか。あれは完全に私の不注意で、これからそういうことがないように気をつければいい。竹谷くんに心配掛けるのも嫌だし、何よりそろそろ呆れられてもいい頃だ。
しかし竹谷くんはため息をつくこともなく、ただじっと私を見つめる。その目は何かを考えているようで、探ってもいるようだった。
「桐野さん、」
「え、あ、はい」
「嘘は言ってないけど、全部も言ってませんね」
竹谷くんの言葉は、疑問ではなく断定。
「は組の連中が誘拐犯がどうとか言っていたので、そうですね。多分、それ絡みできり丸や土井先生と遭遇したんでしょう……いや、」
視線がようやく私から逸れたのに、こちらは竹谷くんから目を放せない。あ、これ、絶対全部言い当てられるパターンだ。
「小さい姿ってことは、桐野さんが誘拐犯に遭遇して、それを土井先生かは組に助けられたとしか……」
「もう推理しなくていいです!まさにだいたいその通りだから!!」
手をつけていない団子を串ごと竹谷くんの口に突っ込む。彼はそれに随分驚いて、けれどそのまま食べてくれた。優しい。
「まあ、きり丸くんも他人の振りするつもりだったんだけど、どうしてか分かっちゃって」
「勘のいいとこありますから。特に一年は組は……で、誰にどこまでばれたんです?」
「う、うーん、それがとりあえず、完全に分かってるのがきり丸くんだけなの。動物もどき、というか魔法っていうのは分かってないと思う。不思議なことが出来る、みたいな」
「……じゃあ、土井先生は」
ここが一番の悩みどころだ。土井先生は恐らく、小さなあやめが桐野あやめということを確信しているであろう言い方をしていた。私はそれを肯定することはしなかったが、それも完全にばれていると思っていいのだろうか。
「それが、微妙。敵ではないですよね?みたいな感じで、私もあやめってことは言わなかったから」
「……それ絶対確信持たれてますって」
「人が縮むなんて、すごく非現実的なことなのに?」
「それはまあ、うん、確かにそうですね……」


...end

竹谷くんによる竹谷くんのための聞き込み
20130301
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