「きり丸とはいつ知り合ったんですか?」
「色んなことに巻き込まれたって聞きましたけど、本当ですか?」
「ナメクジさんは好きですか?」
「腕が立つって話を……」
四人一斉に話されては、私は聞き取ることなど出来なかった。乱太郎くんときり丸くんは、そんな私を苦笑しながら見ている。見ているなら助けてくれてもいいと思う。するとそれが顔に出ていたのか視線で訴えていたのか、乱太郎くんが黒木くんの脇をつついた。
「あ、みんな!質問は順番に、だ」
乱太郎くんにつつかれて、黒木くんはそう言い放つ。学級委員だけあって、こういうのは慣れているのかもしれない。
「は〜い、じゃあぼくからね。ナメクジは好きですか?」
そして山村喜三太くんは、ナメクジについて聞くのはお約束か何かだろうか。小さいときにも同じこと尋ねられたぞ。
しかし一度答えた質問をもう一度、というのはなかなか微妙なものだ。同じ答え方でいいのだろうか。それとも少し捻った安全策の方が。いや、変に答えて何かしらボロが出ると面倒である。
「普通です」
「えっ」
「え、」
山村喜三太くんときり丸くん以外から、ぎょっとしたような反応を頂きました。
「好きでもないけど、嫌いでもない」
恐らく年頃の女性の反応は、悲鳴からの拒絶が一般的なのだろうけど。まあ魔法使いの私にそんな反応しろという方が間違っている。
山村喜三太くんは私の答えを聞いてぱっと表情を明るくさせると、勢い良く例の壷を差し出した。わーナメクジさんがこっち見てる。こっち見んな。
「じゃあナメクジさんとおともだちに……」
「それは無理だと思う」
あ、しゅんとした。
だがそんな山村くんを物ともせず、次の質問がぶつけられた。
「きり丸とはいつ知り合いになったんですか?」
これはきり丸くん以外、全員が興味ありそうだ。さっき質問に参加していなかった乱太郎くんまで聞く体制に入っている。
私は何となくきり丸くんへ視線をやって、少し考えた。バイトをしている時にお客さんとして、と言うのがいいのだろうが、女装とかそういうのは省いておいたほうがいいのだろうか。
「初めはお客さんとして、だよね」
「そ、花売りのバイトしてた時だから、おれその時女装してた」
あ、言っていいんだ。きり丸くんは女装すると物の売り上げが伸びると言ってはいたけど、ここまでオープンにしているわけか。
「で、そのまま途中まで本気できり子ちゃんだと思ってたの。それでちょくちょくバイトのお手伝いして」
「そんな感じっすかね」
討伐に巻き込まれているのはきっと知っているだろうから、その辺りは説明不要でしょう。そう考えて次の質問を促すと、今度は黒木くんが控えめに手を上げる。
「あの、」
少し言い難い内容なのだろうか。でも表情は深刻そうな表情ではないから、この質問も彼らの興味の延長だと思う。
「竹谷先輩や伊賀崎先輩と仲が良いのはどうしてか、聞いても大丈夫ですか?」
難しい質問がやってまいりました。これは内容的にきり丸くんに助けを求めることも出来ない。答えない、と言う手もあるのかもしれないが、そうしたらそうしたで竹谷くんと孫兵くんに迷惑が掛かりそうだ。
「竹谷先輩は分かるんですけど、伊賀崎先輩は基本的に毒虫や毒蛇……自分のペットにしか心を砕かない方なのですっごく不思議だったんです」
「あーうん、そうだねぇ」
その疑問に納得してしまう。私も初めは心が折れるかと思いました。
恐らく私が動物もどきを使えなかったら、孫兵くんはあの一線引いた関わり方を変えることはなかっただろう。それは今の私にも分かる。だから余計に、不審がっている人がいるのだ。普段と違う行動を取っていれば、それはどうしても他人の目に付くものだから。
「孫兵くんの心情は分からないから勝手なことは言えないけど、でも、なんて言うのかな。物珍しさとかそういう、」
あ、今「え?」って顔された。
「え、何、なんかおかしなこと言った?」
きり丸くんは難しい表情で私のわき腹をつついた。
「そこは信頼とかそういう言葉が来るもんですよ。なんですか、物珍しさって」
確かに微妙な理由ではあるのだが、仲良くなった経緯といったらこれしか思い浮かばない。今でこそ私が孫兵くんを可愛がって、また彼もそれに甘えてくれる(と思っている。少なくとも私は)ようなものにはなっているが、きっかけは完全に動物もどきだ。虎だから懐いてくれた。人なのに人じゃない。そういうものではなかっただろうか。
まあ今はそういうの関係なく仲良くなっていると思いたいものですけど!!
「……そ、それ以上の言葉が見つからない。でもきっかけなんてそんなものでしょ。それに多分、基本的に蛇が大丈夫というのも大きいと思う」
毒蛇は触れないが、見ているだけなら問題ない。普通の蛇は魔法で扱うことも、個人的に扱う(パーセルタングへの挑戦など)こともあったから平気。
「あやめさん、結構何でも平気なんですね」
感心したように話すきり丸くんに、私は頷いてみせる。
「毒が無ければ」
これは重要だ。
「でも、伊賀崎先輩のジュンコちゃんは毒蛇ですけど」
皆本くんがぽつりとこぼすが、これはまあなんというか。
「でもジュンコちゃんって、人の言葉をほとんど理解してくれるじゃない。こっちが怖いっていうの、察してくれるよ」
しかしこれにはこの場にいる全員から反論を頂いてしまった。みんなジュンコちゃんで色々巻き込まれているんですね。
ジュンコちゃんの騒動を少し聞かせてもらって、それから話題は竹谷くんに移る。どうせならこのままフェードアウトして欲しかったのに、うまい具合に引き戻された気がする。
そもそも竹谷くんについては、出会いや関わる原因、とにかくいろんなことが魔法という説明なしでは成り立たないのだ。
まずこの世界に落とされて、襲われている竹谷くんを助けて、この時代ならではの常識を教えてもらって。動物もどきの練習だって付き合ってもらっている。これを説明?無理。
何かしら適当な理由でもつけるかという話は私もしたことがあるが、忍術学校の上級生が調べている中で、取って付けたような設定は逆に危険だろうと言われているのだ。そうだね。どこまでどういう風に調べられているかなんて分からないものね。それに孫兵くんが私を「山奥から来た人」と言ってしまっている。もうそれを貫き通すしかない。
「私、竹谷くんには凄くお世話になってるの」
真剣にそう言えば、黒木くんが納得したように頷いた。それは竹谷くんならそうするであろうことが分かっているようで、私はそれが、少し嬉しい。
「竹谷先輩は生物委員会委員長代理もなさっていますし、とっても世話好きな方ですよね」
その言葉に大袈裟なほど同意して、自分が彼に如何に助けられているかを気をつけながら語る。正直自分の駄目さ加減も露呈している気がするが、もうこの辺りは気にしないことにした。もう今更だ。
「だから受けた恩を返そうとしてるのに、とにかく迷惑しか掛けていないというか何というか」
それに最近はあまり会う機会もない。竹谷くん自身が忙しいのか、それとも学校の方から何かしらの制限が出ているのか。……だとすれば、
「もう関わる方が迷惑な気が」
語っていたら、新事実に突き当たってしまった。うっかり出てきた自分の言葉に衝撃を受けていると、きり丸くんが慌てて私を慰めてくれた。背中を小さな手が元気付けるように撫でてくれる。
「な、何言ってるんすか!どちらかって言えばあやめさんは巻き込まれているほうなんですから、そんなこと、絶対無いですって!たまたまですよ、たまたま。ほら、おれたちだって毎回何かしらの騒動には巻き込まれていますし、少し騒ぎが大きめになってるくらいで」
「きりちゃんそれ慰めてるの?とどめさしてるの?」


...end

質問大会
20121230
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