頭が痛い。暗い。どこかではしゃぐ子どもの声がする。きり丸くんとは違う声だと思う。確か名前を聞いたはずなのだけど。聞いたのに思い出せない。頭が痛いからだ。どうしてこんなに痛いのだろうか。ああ、そういえば。
「なんか物凄く手酷い攻撃を受けた気がするんだけど」
目を開けたと同時にそうつぶやけば、乱太郎くんの顔がすぐそこにあって驚いた。
「あ、あやめさんが目を覚ました!」
彼が声を上げると、わらわらと小さな子どもたちが覗き込んでくる。
「あやめさん、大丈夫ですか?頭、痛くありません?」
その中で尤も私に近づいてきたのはきり丸くんだった。横になっている私に頭突きでもする勢いで顔を寄せてくる。
「頭は、何だか痛いけど……ここどこ?」
寝たまま頭部を傾けて、痛みがある箇所を撫でてみる。あ、コブになってる。これは痛いはずだ。
「ここは土井先生の家っす。あやめさん倒れちゃったから、先生が運んでくれて」
きり丸くんの言葉を聞きながら身体を起こす。頭以外痛い場所はないから問題ない。
しかし土井先生の家、って、え、先生の家だと!?
ぎょっとして周りを見るが、彼の姿は今は見当たらない。ついでに自分の身体が通常のサイズに戻っていることも確認する。
「あ、土井先生なら、もう少しで戻られると思いますよ」
乱太郎くんがにこにこと私の疑問に答えてくれた。
「ありがとう。で、一体私はどうして倒れたの?いや勿論この頭のコブが原因だってことは分かるんだけど、その理由が知りたいというかなんというか」
濡れた手拭いを乱太郎くんから受け取って、指示通りに患部に当てる。水はそう冷たくないから、余り気持ち良くはない。でもないよりはマシだろう。
すると近づいてきた子どもの中の一人である黒木くんが、皆に目配せした。そうしてきっちり正座をし、がばりと頭を下げる。
「すみませんでした!!!」
「ごめんなさーい!」
「すみません!」
様々な謝罪の声が周りの子たちから飛んでくる。誰が何を言っているかは分からないが、皆しっかり正座して頭を下げているのを見ると、先ほどの目配せからして謝る準備をしていたのだろう。
そうして黒木くんはこちらを伺うように顔を上げた。乱太郎くんときり丸くんは特に何も動きがないから、この二人は何の関係もないに違いない。
「えっと、」
しかしこちらは突然謝られても困る。私は理由が知りたいのであって、謝罪はそれからでいいのだ。必要ない可能性もあるかもしれないし。
「は組の学級委員長である僕が、責任持って説明します。名前は黒木庄左ヱ門。きり丸や乱太郎と同じ組の仲間です」
「あ、これは丁寧に……私は桐野あやめです」
こちらが名乗ると、何人かがこそこそする。多分縮み薬を被って小さくなったあやめの方でも思い出しているのだろう。
「えっと、桐野さんが倒れたのは、僕らが投げたものが頭に当たってしまったからでして」
「あー」
少し言い難そうにする黒木くんに、私は曖昧な返事をする。確かに痛かった。ついでに今も痛い。でもこのきり丸くんの友人が、知らない人に理由もなく、突然物を投げるとは考えられないのだ。先ほど頭を下げていたのもあるが、恐らく、何かしら訳があるのではないのだろうか。まあそれで人に物投げていいかと言われたら微妙ですけども。
「その、とっても言い難いんですが、ぼくらてっきり、人攫いの仲間かと思ってしまって」
「ああ……」
納得がいった。心情的には人攫いに間違えられたなんてショックだが、頭でなら理解は出来る。
きり丸くんの手を引っ張りつつ逃げる私は、確かに知らない人からすれば人攫いに見えないこともない。かもしれない。特にきり丸くんが一人であんな場所で迷っているかもと思っていたなら、余計にそう感じるだろう。
「近くにあった板を投げました」
「ぼくは石を」
「ぼくも石を」
顔を上げた少年たちから次々と恐ろしい言葉が投げかけられる。何が怖いって、武器がおおよそ石ってことだ。ぞっとして、思わずきり丸くんに視線で助けを求めた。
「で、その中で当たったのが、大き目の板だったってわけです」
「あ、石は当たらなかったのね」
少しほっとする。下手をすれば今頃目を覚まさずに、永遠の眠りについていたかもしれない。
「でもまあこれだけで済んだのは幸か不幸か……」
改めて後頭部を擦る。痛いし腫れてはいるが、特に血は出ていないだろう。顔面とかではなくて良かった。
「まあ、理由も分かったしもういいよ。この位なら何日も痛む心配もないだろうから」
そうは組の子たちに言えば、彼らは何度か瞬きして顔を見合わせた。
「それだけ、ですか?」
黒木くんが意外だというように、元から丸い目を見開いている。彼らの反応は予想範囲内だ。
私も今回ばかりは自分がお人好しだとは思う。勿論叩かれていない頬を差出す精神で言ったわけではない。謝る姿が真剣で可愛かったというの理由の一つではあるが、彼らが土井先生の生徒だからだ。
先ほどの小さい子どもの姿で会ったのにも関わらず、土井先生は何かを察しているようだった。それは私が何かしらの不思議な力を使えると思っているのか、ただ桐野あやめとあやめが同じなのだと感付いてしまったのか。
とにかくそんな人が彼らの担任なのだ。正直に白状すれば、もうそんなに関わりたくない。ならば私の後に引くことのないであろう判断は、間違いではないはず。
「なんていうかな……私も同じ状況なら、似たようなことしてた。とっさにそう思ったなら、早い対応は必要だと思うから」
それに似たようなこと、というか、竹谷くんにはほとんど同じことしている。あの時点ではどっちが悪いかも分からないのに、黒い服の忍者を失神させたことは記憶に新しい。まあ、倒した相手が悪っぽかったので、これに関しては問題はないけれど。
「友だちがピンチなら、助けるのは当然でしょ」
笑顔でそう言えば、彼らの罪悪感も軽くなるだろう。初めからそんなに無かったよ、とか言われてしまったらそれはそれで悲しいが。
は組の彼らはやっぱりもう一度顔を見合わせて、可愛らしい笑顔を見せてくれた。きり丸くんは照れているようで、頬がほんのり赤く染まっている。小さい子って全身で感情を表してくれるから、とても可愛い。
「じゃああやめさん!お聞きしたいことがあるんですけど、」
そうして何故か始まってしまったは組からの一斉の質問タイムに、私は頭の処理がさっぱり追いつかないことを知った。


...end

は組は組言っているけれど、この場にいるのは半分なのを忘れてはならない。
20121222
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