朝起きて布団を捲ってみたら、そこには小さな子どもがいた。しかも自分の身体の上に乗って、服まで握りこんでいる。
前日家に入れた覚えもなく、顔すら見たこともない子。……本当に誰だ。


七松小平太の場合


言葉を失ってその様子を眺めていると、どうやらその子どもも目を覚ましたようだった。左手はしっかり洋服の裾を握り締めながら、右手は一生懸命目を擦っている。
「あ、そ、そんなに擦ったら目が痛くなるよ、」
こちらも混乱しているのだろう。まずはこの子の正体を尋ねるべきなのに、ベッド脇のティッシュで目の下辺りを拭ってやる。
すると子どもはぽかんと口を開けて、こちらを凝視してきた。私もそれに釣られる形で子どもを凝視する。
しかし随分古めかしい格好をしている。というか、着ているものが着物に見えるんですけど、これは如何に。
「だれ?」
「……きみこそ誰?」
「おれは、こへいたー」
こちらが質問に答えなかったにも関わらず、小平太くんは自分の名前を名乗ってくれた。起き抜けだからだろうか。少し舌足らずな話し方が可愛い。
「こ、小平太くんね。私はあやめです。えっと、どうしてここで寝てるのか聞いていい?」
「んー」
こちらも慌てて名乗って、首を傾げる小平太くんの答えを待つ。だが彼はまだ寝たり無いのか、首を傾げたまま舟をこぎ始めた。
「わ、あ、あ、」
寝られたら困るのだが、こんな小さな子の眠りを妨げていいものかとも悩む。というかそもそも、鍵の掛かった家に勝手に子どもが入り込むわけが無い。とすると、これは夢なんじゃないだろうか。


あ、そうか!夢か!!


自分の中で勝手に出た結論に、すんなり納得する。だってそう考えた方が現実的だ。
小さな子どもが好き!というほどではないが、こうやって自分に引っ付いて安心したように眠るのを見れば、邪険にすることなんて到底出来ない。暖かいを通り越して熱さすら感じる体温に苦笑して、その柔らかい身体をそっと抱きしめてみた。夢だし。
それから布団を被りなおすと、小平太くんはもっと、とでも言うように擦り寄ってきて、自分の一番いいポジションを探し当てた。おおおお、可愛い。
そうして私はこれを夢だと決め付けて寝直してみたのだが。結論から言えば、夢じゃなかった。


「あやめー、あやめー、お腹へった」
自分の腕の中で大変楽しそうにそう宣言する小平太くんは、どうも夢とは程遠いところに居るようだ。いや、現実逃避はやめよう。とりあえず、受け止めてみるべきだ。
「……うん、私もお腹すいたなー」
小平太くんの意見に賛同してみると、彼は私にしがみ付いたままとてもイイ笑顔を向けてくれた。輝いてすら見える。
身体を起こしてしがみ付く小平太くんを離そうとするも、なかなか剥がれない。あれ、子どもってこんなに力が強かった?
「こ、小平太くーん、とりあえず放そうか」
「やだーあやめあったかいんだもん」
「うお、ご、ご飯作れないよ。食べるんでしょ?」
胸の辺りにぐりぐりする小平太くんにそう問いかければ、案の定、彼は一時停止した。そうして少し何かと葛藤した後、そっと離れてくれる。よ、良かった。
「……たべる」
きゅん。見知らぬ子なのにうっかり胸を打ちぬかれたのは、やっぱりこの状況が夢みたいだからなのだろうか。


...end???

ちび小平太が「やだー」と言っているのを想像しただけで、ご飯三膳はいける。
人懐っこくても人見知りでも美味しいが、人懐っこいこへで!
20121202
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -