「ほ、本当に見失った!!」
がくりと肩を落とした私は改めて周りを見る。しかしきり丸くんの姿はない。これは本当に置いていかれてしまった。
これはもう一度、道案内の妖精魔法を使うことにするしかないだろう。でもまさか、呼び出した妖精も探す羽目になるとは。本当に情けないというかなんというか。
腕を上げて小さく呪文を唱えると、袖の中から小さな淡い光が先ほどと同じようにふわりと浮く。今度も地面ギリギリを飛んでもらうことにしようと思う。滑り出した妖精を見失わないように追った。今回はしっかりコントロールできているはずだが、油断は禁物だ。
こうやって苦手な魔法を使っていると、自分が如何に諦めてきたかが良く分かる。才能がどうのではなくて、もう少し基礎くらいを極めておけば良かった。特に癒しの呪文については後悔してもしきれない。あれがまともに使うことが出来れば、きっともっと役に立つことが出来ただろう。
勿論変身術だって役に立ちはするだろうが、この医療事情からしたらどちらが良いかなんて比べるべくもない。何でもこなすことが出来ていた友人が、今更羨ましい。
「……外に向かってる?」
そこで一旦考えるのを止めた。妖精が町の外の方へと移動しているのが分かったからだ。それにつれて人の姿も少なくなってくるから、誰かをつけるのは難しくなってくるだろう。
妖精の移動スピードを落として、周りの様子を見ながら進むことにする。しかしきり丸くん、一体どんなスピードで走っていってしまったのだろう。もうは組の子たちと合流することはできただろうか。
そこで案内していた妖精が、ふわりとその場で高く浮いた。そうして一度くるりと回ると、何事もなかったように消えてしまう。……なんだ?
でも少し考えれば分かることだ。私は今、妖精魔法の妖精を追っていた。ならばその追っている妖精が案内を終えて消えてしまえば、それを追う側の妖精も当然消える。探している対象が居なくなったらどうすることもできまい。
「ということは、合流したのかな」
追う対象をきり丸くんにしておけば良かったと思いつつ、もう一度呪文を唱えようとした瞬間、目の前に人が落ちてきた。
「ぎゃあ!!」
全くもって可愛くない声を上げてしまったが、仕方がないと思う。だって本当に人が降ってきたのだ。少なくとも、背の小さな私にはそう見えた。
「っと、驚かせてすまない」
だがその降って沸いてきた人は、すぐさましゃがみ込んで私の目線に合わせてくれた。そこでようやく誰だか分かる。土井先生だ。いや、私の先生ではないんだけど、きり丸くんがそう呼んでいたから移ったのだろう。仕方がない。
「……一人かい?きり丸はどうした?」
「あ、えっと、」
なんと言うべきか迷う。怪しい二人組みを追ったは組を追いかけていてはぐれたなんて言ったら、後々きり丸くんが怒られそうな気もしなくもない。一応私はバイトの一環で預かられている設定なのだ。その子どもを置いてどっか行っちゃいましたなんて不味いだろう。追いかけようと言ったのは私だけど、こちらの事情を知らない人にそう説明しても納得してもらえるとは思えない。
「えー、その、」
黙っているわけにもいかない。しかし良い言い訳が思い付かなくて、オロオロするしかなかった。せめてきり丸くんを庇えるような話が出てくればいいのだが。出てきません、はい。
「わ、私が!」
出てこないなりにどうにかするしかない。
「私がきり丸くんとはぐれちゃって!」
自分の責任を主張しつつ、正直に言ってみた。まあきり丸くんと話を合わせる時間もあるか分からないし、私も嘘を突き通せる自信がない。なんたって相手は忍者の教師だ。
「……そうか、」
土井先生は私の頭にぽんと手を乗せると、そのまま小さい子にやるように軽く撫でてくる。照れるが我慢だ。逃げ出してはならない。我慢だ。
しかし土井先生。頭を撫でるのをやめてもじっと私を見たままだ。しかも表情は優しげというより真剣といった方が正しい。何かを見極めているような、そんな顔だ。
「あ、あの、」
そんな視線に耐えられるわけもない私は、とりあえず声を掛けてみる。
「土井、先生?」
改めて何と呼んでいいか分からないので、先生を付けてみた。土井さん、よりは自然だろう。
「……何かな?」
「あの、えっと、私、行かないと」
自分でそう言って、目的を思い出す。そう、今はきり丸くんを追う途中だったのだ。彼らは自分より大きな人を追っている。しかもそれは「イイ人」ではない。
「追いかけないと、危ないかも、しれないから」
何かあってからでは遅いのだ。相手だって、子どもだからといって手加減してくれるような人間でもない。そもそもそんな常識を備えられているような人が人攫いなどやるはずもないだろう。
あ、何だか凄く心配になってきた。先日の一件(巻き込まれたやつ)もあるから余計に。
「行かないと!」
考えてしまったら立ち尽くしてなんかいられない。土井先生の視線もぶっちぎります。
軽く頭を下げて土井先生の横を走り抜けた。待機していた妖精を滑らせて、追いかけるのを再開しようとした瞬間。
「わ、」
ふわりと、身体が浮いた。


...end

土井先生に夢見がち。
20121127
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