「きり丸くんは、どっち行ったか分かる?」
「分かったら苦労しませんて」
目を離したのはそう長くないのに、小さな彼らも悪い二人組もどちらの行方も分からなくなってしまった。慌てて辺りを見回すも、その姿は見つけることが出来ない。小さい分動きも早いのだろうか。それともこれが忍たま?一年生なのに侮れない。
「言ったでしょう。は組は実戦経験が豊富なんですって」
唸る私にきり丸くんはそう言って、それから私の手を取った。
「追いかけるなら早く探しましょう」
「う、うん」
こちらもはぐれないようにと力を込める。一生懸命走ろう。せめて、足手まといにならないようにしなければ。


……とか思ってたおよそ十分前の私。それはとても無謀な挑戦でした。
「大丈夫ですか?」
ぜいぜい息を乱す私に、きり丸くんは辺りを注意深く観察しながら背を擦りながら問いかける。情けないことに、あっという間に息が上がってしまった。本当にあっという間だった。日頃の運動不足と、今まで如何に魔法に寄り掛かってきたかが良く分かる状態である。
「だ、大丈夫、かもしれない」
小さい身体で体力もそれに釣り合うようになっているにしても、これは問題な気がする。だって隣のきり丸くんは全然平気そうなのだから。少しも息が乱れていない。少し額に汗をかいているが、そんなの当然だ。私を見てみろ、息も絶え絶えだぞ。
「やっぱり戻りましょうか?」
「いや、ここまで来て戻るとか、悲しいから却下します」
無理矢理息を落ち着けるために深呼吸して、目を閉じる。こうやってきり丸くんの(人に聞き込みつつ走る)方法で探していたら、確実に私が潰れる。もしや諦めさせようとそんな……いや、それはないか。
しかしきり丸くんの聞き込みは大変自然で、思わず拍手か何かしたくなってしまうほどのものだった。首を軽く傾けつつ、
「忍者ごっこしてたんだけど、友だち達とはぐれちゃって……。おれ位の集団なんですけど、見ませんでしたか?」
と、人を選んで尋ねていた。女の人とか、お年寄りとか。理由を聞けば簡単な話だ。その方が安全だから。そして私たちのこの姿がその人たちに受けがいいから。ワオ、そこまで計算しますか。
けれどその聞き込みも限界はある。人の記憶なんて曖昧なものだし、何よりこの町に子どもは私たちだけではないのだ。すでに二回、情報の外れを引いている。
「でも、ここを通ったのは確かみたいなんですよね」
きり丸くんは私から少し離れて、再び周りを見渡している。それはぼんやり座っていたおじいさんが教えてくれたことだった。壷を持った少年が転びかけていたらしい。それは確かに印象に残る、かも。
私はもう一度深呼吸して気合いを入れなおした。十分ぐるぐる回ったし、これ以上はこちらの体力が持たない。魔法を使わせてもらいます。
杖を取り出して小さく呪文を唱える。これは道案内をしてくれる妖精魔法。そんなに強力なものではないから微かな光だし、何より結構大雑把なところもある。今の私たちには丁度いいだろう。
「あ、あやめさん、それ、」
「ん?ああ、これね、」
きり丸くんはすぐに私が持つものに気がついたようだった。恐らく背が縮んで目線が同じになったせいだろう。
「見つかるようにおなじない、みたいな?」
ある意味間違ったことは言っていない。正しいことも言っていないが。
それでもこれ以上、この杖で何かやっているのを見せるのも不味い。普段と同じように、杖は利き腕の袖の中に大きさを調節して偲ばせることにした。
これで利き腕を振れば魔法が使える状態。ただし攻撃魔法は少し無理がある。だって攻撃の光線が袖から出ることになるのだ。絶対に着物も焦がしてしまう。絶対に。そんな魔法を使う状況にならないことを祈るしかない。
ふわりと淡い光が地面すれすれまで落ちていく。私の目線に合わせたらきり丸くんにもばっちり見えてしまうし、少し上のほうにしてしまったら今度は町の人たちに気が付かれる。だから地面すれすれ。
それなら太陽の関係で何かが光ったのかもと考えるに違いな、あれ、ちょ。
「小銭!?」
隣りで忍者の卵らしく辺りを伺っていたきり丸くんが、突然嬉しそうに飛び上がった。私はそれにぎょっとして肩を跳ねさせてしまう。
「小銭?金目のもの!?」
目の色が変わるとはまさしくこのことだと思う。いや、もう目が小銭に変わっていた。
それに驚いた妖精が、驚いたように地面を滑り始める。術者を置いて案内の開始だ。制御できないあたりが私らしいというかなんというか。情けない。
「小銭!金(きん)!」
「きり丸くん!?」
それは楽しそうに妖精を追いかけ始めてしまったきり丸くんを、私も追いかける。まあどちらにせよあの光を追って歩き出さなくてはならなかったのだから、結果オーライと言ってしまえばそうなのだろうけど。説明しなくてもいいのは感謝するべきかもしれないけど。
「お、置いていかれる……!!」
きり丸くんの足はさっきとは比べ物にならないくらい早くて、私は早速心が折れてしまいそうだ。
「きり丸くーん!」
「こっぜに!こっぜに!!」
全然聞こえてません。私たち(特に私)は無事には組を見つけられるのでしょうか。


...end

小銭が絡んだきり丸の真髄を、ようやく見ることが出来たあやめ。
20121118
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -