数馬くんが富松くんに薄めた元気爆発薬を含ませるのを見て、他のものを仕舞い始める。とりあえずこれで私が出来ることは終わった。あとはこのままここで休んでもらって、数馬くん以外の残った二人に実習監督の六年生とやらを呼んできてもらおう。
とりあえず私はどこかに隠れていようかな。暴君七松には出来ればお会いしたくない。
「よし、完了」
伊賀崎くんが持っていてくれた小物作成セットを受け取り、放り込んでトランクを閉める。そうして軽く持ち上げて、肩に掛けた。
するとそれを見ていた伊賀崎くんが、感心したように言った。
「よくそんな入れ物に、あんなに荷物が入りますね」
「んん?」
「だって薬の入れ物も今の入れ物も、小さいものではないでしょう」
確かに伊賀崎くんの言う通りである。普通の鞄なら、絶対に入りそうに無い大きさだった。このトランクは特別に空間をいじってあるから問題はない。けれどそれを、魔法を知らない彼らに教えるわけにはいかない。
「収納上手なの」
「上手で済むレベルでもない気がしますが」
そのやりとりに二人で軽く笑う。この程度のやりとりなら、伊賀崎くんとは結構している。この子は本当に優しい。気になることも沢山あるだろうに、私が言わなければ詳しく突っ込んではこない。こちらが言いたくないであろうことを察してくれるのだ。
「じゃあ伊賀崎くんと、藤内くん、でいいのかな」
今まで話しかけることのなかった藤内くんへ声を掛ける。すると掛けられた本人は一拍遅れて返事をくれたのだが、隣りの伊賀崎くんがそっと眉を寄せたのが分かった。
「……あの、私、今名前間違えた?」
思わず藤内くん本人にそう尋ねてしまうくらいに。
「え、いえ、そんなことはありませんけど」
藤内くんも伊賀崎くんの表情の理由が分からなかったのだろう。否定しつつも、恐らく私の言葉を反芻している。
するとそんなやりとりを聞いていた数馬くんが、心当たりがあるのか小さく笑った。
「あやめさん、あの、孫兵のことも名前で呼んであげてください」
「な、数馬!?」
私が驚くよりも先に、伊賀崎くんが反応した。
「余計なこと、」
「でも事実じゃない。孫兵、名前で呼んでもらいたかったんじゃないの?」
穏やかに続ける数馬くんに伊賀崎くんは黙り込んだ。と、いうことは、先ほど言っていた数馬くんの言葉は本当だと言うことになる。思わずきゅんとなってしまった。
「え、なにそれかわいい」
うっかり心の声が漏れてしまった。だってなにそれうわあああかわいいいいい。
しかし心の声をあらわにしてしまった為、表情だけはデレデレしないよう気をつける。これくらいの歳の男の子は可愛いなんて言われても嬉しくないだろうから。
だが伊賀崎くんは気にしないようだ。ただ数馬くんに言われてしまったささやかなお願いは、どうやら私の耳には入れたくないものだったらしい。
「聞かなかったことにしてください」
「どうして?」
伊賀崎くんの視線がそっと逸らされてしまった。
「だ、だって、」
「ん?」
「だって、その、こ、子どもっぽいじゃないですか。そんな、名前を呼んでもらいたいとか、」
思わず数馬くんを見る。すると彼は穏やかに、私の気持ちを理解するかのように頷いた。
デレもここまで来ると、私を悶え殺す気なのではないかと思えてきます。
「もう、どこが子どもなの!」
数馬くんたちがいることなんて関係なかった。伊賀崎くんをぎゅっと抱き締める。普通は嫌がるだろうが、彼は私が虎の姿の時に散々抱きついている。そんなに抵抗は無いだろう。証拠に少しは驚いて固くなったものの、すぐに力を抜いてくれた。でへ。
「孫兵くん?」
望み通りにそう呼んであげれば、伊賀崎くん改め孫兵くんは、嬉しそうに頬を緩ませた。全く照れずに喜んでくれるのは、きっと私を女の人として見てないからなのだろうけど。複雑だが、距離が無いのは私にも都合がいい。
「あのね、孫兵くん。どうせだから言っておくけど、遠慮はしなくていいんだよ。今みたいなことも、言ってくれれば私は出来る限り叶えてあげるし」
だって私も、いろんなことで救われているのだ。
「困ったときとか助けて欲しいときは、私に言って。言ってくれれば私は、絶対に助けに行けるから」
魔法は偉大だ。マグルだったら出来ないことも、魔法使いはいとも簡単にしてしまえる。どんな障害があっても空を飛んでいけるし、どんな攻撃だって防いでしまえる。まあ、怪我とかそういうのは専門外ですが。
「……じゃあ、その、もう一ついいですか?」
孫兵くんは小さく尋ねてくる。私はそれに大きく頷くと、今度は彼は、頬をほんのり赤く染めた。
い や な よ か ん。
「今度はジュンコと遊んであげてください」
歪みがないお願いだ。
ばっちり当たってしまった予感に、私はがくりと頭を垂れた。お願いを聞くといってしまった手前、首を横へ振ることは許されまい。
パーセルタングの本を持って挑戦しようと思います。


...end

二人の世界についていけない数馬と藤内。でもこのやり取りで、なんとなく孫兵のデレに納得し始めるといい。大事にされているから大事にするんだな、みたいな。
20120915
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