「ゆうじん、ですか」
不破くんは私の答えに納得していないようだった。だがこちらとしては他に言いようがない。助け助けられの関係ではあるけれど、最近は竹谷くんに頼りっぱなしだし、何より事情が事情だ。そう簡単に話せることでもない。竹谷くんが何も言っていないのなら、ここは私もはぐらかすべきだろう。
でも彼が納得していないのも確かだ。だが善法寺くんへのように冗談交じりの答えを初対面の人に言うなんて、ハードル高くて出来る気がしない。
「へ、変ですか?竹谷くんに色々お世話になってたりするから、友人っていうのとはまたちょっと違うかもしれないですけど」
「あ、いえ、変とかそういうんじゃなくて……興味というかなんというか」
不破くんが困ったように頭をかいた。これは、この反応は見たことがある。同級生の事情に踏み込んで、ちょっと気まずくなった感じ。私もある。だって気になるじゃないか。まあその好奇心が身を滅ぼしたりするんだけども。
それに良く考えれば、竹谷くん、結構頻繁に来てくれていた。委員会や勉強で忙しいですよ、とか言いながら、わざわざ私に様々なことを話しに来てくれていたのだ。そうなれば、学校の友だちと過ごす時間だって少なくなってしまうだろう。
不破くんが私を気になるのは当然のことである。仲がよければ良いほど、こちらへの心象は悪いに違いない。
「……あーごめんなさい。もしかして竹谷くん、私のせいで生活変わったりしてしてます?」
だとすればそれは由々しき問題だ。
「あ、違います違います。僕が興味があったのは、その――、ほ、本人に言っていいのかな。でも失礼かもしれないし……」
「大丈夫です。さくっとどうぞ」
はっきり言ってもらえた方が嬉しい。そうすれば、こちらはそれを直すことが出来るかもしれないじゃないか。
「きり丸からも色々聞いてて、会ってみたいなって思ってたんです。でもハチ、竹谷は余り会わせたくなかったみたいだから、話も聞けなくて」
視線が合う。思ってもみなかった内容に、ちょっとにやけてしまった。よかった、嫌われてるとかじゃなくて。
そして竹谷くん、しっかり秘密を守ろうとしてくれているんだな。それに比べて自分はどういうことだろう。助けることに後悔はしてないけれど、申し訳なくは感じてしまう。
でも竹谷くんのフォローはしておきたい。
「それは多分、私が常識知らずだったからじゃないかな」
「え?」
「いや、今も結構ずれてるところあるんですけど、初めの頃は本当にひどくて」
「そうですか?僕はきり丸から、すごく優しくて不思議な人だって聞いてますけど」
それは本人に伝えていいものだろうか。確かにきり丸くんは変な意味で言っているわけではないだろうけれど、不思議か。間違ってはいないが複雑な心境である。しかし魔法なんて知らない人から見れば、不思議や面妖としか表現することは出来ないのかもしれない。
「でも確かに、少し不思議な感じがします」
「え?」
「雰囲気がちょっと変わっているというか、あ、変な意味ではなくて」
不破くんは慌てて訂正する。視線が怪我をしている肩を見て、それからまた目が合った。
優しそうな目が、ほんの少し細くなる。何かを探るような、でも敵意は感じない。そう思う。でも相手は忍者だ。心の内を隠されてしまえば、私に知る術はない。
「僕たちとは、」
だがその言葉の続きを聞くことはできなかった。探していた乱太郎くんときり丸くんが出てきたからだ。
「お待たせしましたー!」
「あ、わたしに用ですか?」
妙な空気になりかけたその場が、なんとなく曖昧になる。私は肩から力が抜けて、不破くんはさっき言いかけたことを口にすることなくきり丸くんに話しかけた。
ちょっと心臓がどきどきしている。これは一体なんだろう。探られているわけではないのに、なんだか嫌な予感がする。早めにここを去るべきかもしれない。
「乱太郎くん、これ、善法寺くんから。よろしくって」
「わ、ありがとうございます。あやめさん、歩いて大丈夫だったんですか?」
「平気平気。足は治ったし、あとは肩だけかな。こっちもそう掛からないで治りそうだよー」
正直噛まれた瞬間は「死ぬ、これマジ死ねる」とか考えたが、実際はそこまでではなかった。善法寺くんいわく血だらけだったと言われたが、まあ恐らく、私のものだけじゃない。こっちも噛み付いたり爪立てたりしてたから、相手のも絶対にあったと思う。
「しっかしあやめさん、よくそれだけで済みましたね」
「きり丸ってば」
いつの間にか会話を終えていたきり丸くんが、そんなことを言った。それを乱太郎くんが嗜める。
「だって熊ですよ、熊。オレは遠目で見たことありますけど、でっかくて山みたいだと思いましたもん」
「うん、確かに……」
小さい子が二人してしきりに頷いている。どうやら一緒に目撃したようだ。
「そん時は土井先生と山田先生が追い払ってくれたけど、遭遇したらとにかく逃げろって」
腕を振ったあの一撃。守りの呪文を唱えていなかったら、一体どうなっていただろう。衝撃だけで杖が弾き飛ばされたのだ。思い返したらぞっとしてきた。
自由に動く右手が、鳥肌の立った腕を軽くさする。
「……きり丸、怖いことは思い出させちゃ駄目だろう?」
不破くんの言葉に我に返った。
「え、あ!す、すみません」
「あ、いや、大丈夫大丈夫」
「でも顔色良くないですよ?」
覗き込んでくる乱太郎くんに、大丈夫と笑って見せた。これ以上変な心配を掛けるわけにはいかない。それに、一応メモを渡すという仕事は終わったのだ。
「――、あんまり医務室開けると数馬くんが心配するかもしれないし、とりあえず戻るね。クロ助、帰り道もよろしく」
引き止められる前にクロ助に振る。すると彼は心得たとばかりに一つ鳴いてくれた。
「わ、返事した!」
「三治郎がなかなか懐かないって嘆いてたのに」
歩き始めたクロ助を見て、乱太郎くんときり丸くんが感心したように話している。私は二人に手を振って、不破くんには軽くお辞儀をしてその場を後にした。


...end

「彼女、普通なんだけど普通じゃないなあ」
「だから不思議な人って言ったんですよ」
20120728
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