「小松田さん……あの、これは、どうしてこんなことになっちゃったんですか?」
「あやめちゃんどうしよぉ」
目の前の惨劇は、ほぼ確実に彼の仕業だろう。普通なら「現場を見ていないのにその人がやったなんて決めつけちゃいけない」なのだが、いかんせん、これに関しては前科がありすぎる。
一を聞けば十を忘れ、ドジで天然ボケな事務員小松田秀作。……困ったことに、私の先輩である。



「どうしよう、じゃないですよ。一体何やったんですか?」
巻物の山に潰されている小松田さんを、慎重に引き出しながら尋ねてみる。答えはほぼ予想通りだろうが、聞かずにはいられない。
「えっと、巻物を仕舞おうとして運んでたら、なんでか分からないけどけっつまづいちゃって」
「躓いた先の棚にぶつかって、全部落としたんですか?」
「すごい!良く分かったねぇ……あ、ありがと」
感心したように言われるが、別に凄くはない。何故ならこれで片手を突破したからだ。回数的な意味で。
この前はお茶の乗ったお盆を持ったまま棚に激突していたから、今回はまだマシかもしれない。だって紙がダメになっていない。それでも大惨事には間違いないが。
「また吉野先生に怒られちゃう」
「というか、吉野先生そろそろ過労で倒れるんじゃ」
ぽろりと本音を口にすれば、巻物の山から生還した小松田さんがぎょっとする。さすがに迷惑掛けているのは分かっているようだが、行動が伴わないんだよね。
でも良い人ではあるから憎めない。へにゃへにゃして優しくて、間が抜けてて真面目。身元も記憶(!)も曖昧な私にも、他の人と変わらぬ笑顔で「よろしく」って言ってしまうようなお人好し。ついでに私が先輩って呼ぶと照れる。すごく嬉しそうにして照れる。そしてドジる。
「じゃあ、吉野先生の負担を減らすためにも、片付けちゃいましょうか」
分からないものは分からないままにして、分かるものだけ片付けよう。この部屋は重要なものを置いてはいないと聞いているから、私も手伝うことができるはずだ。
そう提案すれば、小松田さんはぱっと表情を明るくした。
毎回思うんだけど、小松田さんって本当に忍者を目指してるのかな。こんなに分かりやすくてなれるものなのだろうか。いや、サイン集めに関しては人の域を超えてるけど。
「あやめちゃんありがとう!」
「小松田さん、今踏んでるの巻物ですよ」
「うわあ!!」



「よし、これは小松田さんも分からないんですね」
「うん」
「じゃあ吉野先生呼んで来ましょう」
「あやめちゃん」
片づけも粗方終わり、吉野先生を呼びに行ってもらおうと小松田さんに声をかける(二次災害を防ぐためだ)。
すると彼は、神妙な声で私を呼んだ。
「はい?」
「ごめんね、」
何かと思えばそんなことだった。確かに何度もドジを踏むのはアレかもしれないし、私の仕事も多少増えている。でも今のところ、直接の被害は受けていない。
吉野先生曰わく、一応初めて出来た後輩だから気をつけているのかもしれませんね。先輩だから良いところを見せたいんでしょう。
そう笑った先生は、妙に優しげだった。こういう時、私は小松田さんの人柄を感じるのだ。
「謝っちゃ駄目です、先輩」
情けなくうなだれる小松田さんに、優しく声を掛ける。普段は照れて大変なドジをやらかす為に封印している「先輩」呼びも、ここぞとばかりに使ってしまおう。
「せ、先輩だなんて……っ」
「こういう時は、お礼の方が嬉しいです」
先輩という単語にヒートアップしないうちに、次の言葉を畳み掛けた。照れドジは避けたい。
「来たばっかりの私が謝ってばかりの時に、そう言ったのは小松田さんですよ」
「っ、う、うん、そうだね。ありがとう、あやめちゃん」
テレテレしながらお礼を言う小松田さんは可愛い。先輩だけど可愛い。ドジで天然で空気読まないけど、本当に可愛い。
そんな風に感じる自分をほんの少し笑って、私は小松田さんの背を押した。
「さ、吉野先生呼んできましょう。私も一緒にお説教聞いてあげますから」
「そんなぁ!」



fin...

小松田さんとは仲良い……のか?
20120401
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