医務室を出て廊下らしき所を歩いていく。その間竹谷くんは黙ったままで、私も口を開くことはなかった。しかし、あんな切り上げ方で大丈夫だったのだろうか。これで竹谷くんとあの先輩方たちの仲に何かが生じてしまったら、私は居たたまれないどころではない。もう土下座しても許してもらえないレベルだ。
ちなみに、竹谷くんは私に肩を貸したまま。その反対の腕で、私が立花くんから借りることになった松葉杖が持たれている。
私は意を決して、竹谷くんに話しかけることにした。
「竹谷くん、松葉杖くれれば自分で歩けるよ」
いつまでも支えてもらうわけにもいかない。すると彼は突然、思いっきり息を吐き出した。
「はあー」
それは肩の力を抜くための、ため息のようにも聞こえる。現に竹谷くんは肩の力を抜いていた。支えられている私に影響はないが、こうやって触れていると先ほどまでの違いが良く分かる。今まで相当緊張していたようだった。
「ど、どうしたの?」
「……あれ以上突っ込んだところまで聞かれなくて良かったです」
どうやら先ほどのやり取り、随分精神力が削れるものだったようだ。私にはさっぱり分からなかったから、その辺りは忍者特有の何かがあるのだろう。
竹谷くんはようやく立ち止まって、私に松葉杖を持たせてくれる。
「立花先輩も善法寺先輩も、最高学年だけあって実力はプロの忍者に近いものがあります。正直、嘘や誤魔化しが通じる相手ではないんです」
私が一人で立てるようにと手助けをしながら、竹谷くんはしみじみそんなことを言っている。やはりさっきの切り上げ方は不味かったんじゃないだろうか。
私一人が疑われるのは全く持って構わないが、この学園に通っている竹谷くんが不信感を持たれてしまうのは避けたい。こちらはこの場所を離れてしまえばどうにでもなるが、彼はそうはいかないだろう。ここの生徒である竹谷くんは、卒業しなければならないのだから。
「ならさっきのは不味かったんじゃ」
「いえ、多少思うところはあるでしょうが、桐野さんは危害を加えてくる人間とは考えていないはずです。俺やきり丸があなたを信用しているというのもあるし、なにより、」
そろりと、手の甲を撫でられた。大切にするような、おそるおそる触れるような。
「この手のひらでは、人を傷つけることは出来ない」
確かに私は、魔法の杖がなくてはほとんど何も出来ないに等しい。けれど竹谷くんは、そういうことを言いたいのではないのだろう。もっと根本的な、考え方や行動からも言われている気がする。
「……そうかな」
「そうですよ。だって桐野さん、目の前で子どもが殺されそうだったら、何も考えず助けるでしょう?」
「まあ、そりゃあ、助けますよ」
「例えばそれが敵の作戦だとか、助けることによってこちらに何らかの支障がでるか、というのも考えないでしょう」
竹谷くんの言葉に少し考えてから頷く。そもそも彼を助けたのだって、ほぼ反射だ。
私に攻撃してきたからというのもある。黒い忍者服たちが一人に襲い掛かっていたから、とりあえず不利な方についたというのもある。人間は、死んだら終わりだから。
「俺たちは忍たまだからそこまで求められてはいないけれど、忍っていうのは、常に判断していかなくてはならないんです。桐野さんのような力は持っていないから、余計に」
それは他人や自分自身を守るために。情で動いた後の、あるかもしれない敵意が怖い。
「忍でなくたって、ここの人たちは、きっと大体そうですよ……話が逸れましたね、学園長に呼ばれているのは本当ですから、はやく行きましょう」
竹谷くんは、私が損得を考えていないと言っているのだろうか。そんなことはないと否定しても、彼は曖昧に笑って首を横に振るだろう。
私からしてみれば、こんなわけの分からない魔法とかいう不思議な力を持つ人間を怖がらず、様々なことを親切に教えてくれる竹谷くんのほうが貴重だと思う。例え考え方をひっくり返されるような体験(空を飛んだり)をしたとしても、力への恐怖というのは正常な判断を阻害するものだ。
そんなことを考えながら竹谷くんの横顔を眺めていたら、突然彼がこちらを向いた。ぎょっとして視線を逸らそうとするが、阻止される。
「さて、桐野さん。斉藤タカ丸さんが言っていたこと詳しく聞きたいんですが、教えてくれますよね」


...end

「いや別にわざわざ首を突っ込んだわけでは!」
「当たり前です。でも無用心すぎるでしょう!!」
20120620
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