私はこちらに来て少し経つが、それにしても。会う少年が大体忍者、いや、忍たまとはどういうことだろうか。私が忍たまに引き寄せられているのか、彼らが私に引き寄せられているのか。まあ恐らく、今滞在している町とこの学園が近いのだろう。ちょっとした買い物とか、遊びに行く場所が被るのだ。
「タカ丸さんもまさかの忍たまである」
思わずそんなことを口にしてしまった。
戻ることになった医務室にて、不運を発動していた保健委員と立花くんで竹谷くんを待っていただけのはずだったのに。まさか仕事協力者とこんな場所で会うとは。
「こんなところで会うなんて奇遇だねぇ、あやめちゃん」
「それは私のセリフです」
相変わらずのんびりとした口調に、私はがっくりと肩を落とす。まさかタカ丸さんまで忍者の卵だとは思わなかった。のんびりした雰囲気と少し目立つ外見から、そういった職種とは遠い人かと思っていた。あ、まさかそれも利用して潜入とかしてしまうんだろうか。盲点である。
「タカ丸さん忍者っぽい雰囲気じゃないから、こんなところで会うとは思わない人ナンバーワンだと」
「それ一体何のランキングですか……でもぼく、この学園入ったの比較的最近ですよ」
ふわふわにこにこ。
やっぱり忍者っぽくないなと思ってしまう。そんなことを言ったら今まで出会った忍たま全員にも言えることだけれど。特にタカ丸さんはなんていうのだろう。目立つというか、髪結いという職業に就いているからか。
だがそこでふと、思い当たったことがある。
「……ということは、タカ丸さんも学生」
「うん」
「最近入ったってことは、立花くんと善法寺くんの方が先輩ってことですよね」
立花くんと善法寺くん、タカ丸さんの三人が頷いた。すると私が言いたいことが分かったらしい立花くんが、簡単に説明してくれる。
「タカ丸さんは私たちと同い年ですが、途中編入ですので下の学年になるんですよ」
ここで私の頭は考えるのをやめた。とりあえず、ここにいる三人は竹谷くんより年上だと言うことは覚えておこうと思う。そういえば、竹谷くんの歳も聞いたことなかった。尋ねれば教えてくれるだろうか。
「途中編入も可能とか、いいですね。私も学んでみたかったなぁ」
忍者が学んでなれるものなら私も学んでみたい。竹谷くんの身体能力は、正直、人間の域を超越していると思う。私は多分なれない。あの身軽さは本当に憧れてしまうけれど。
しかしそれを竹谷くんに言えば、彼は苦笑しつつこう言うのだ。桐野さんの力の方が貴重で羨ましいですよ、と。
「まあ私はそんなに運動能力も体力もないから、きっと基礎の辺りで根を上げるだろうけど」
軽く笑いながら言えば、立花くんと善法寺くんもつられて笑ってくれる。けれどそこで、タカ丸さんが爆弾発言を落としてくれた。
「えーでもあやめちゃん、結構強いよねぇ」
医務室の空気が固まった。
「え、いや、タカ丸さん、何を言っているんですか。この私の、どの辺りを見て強いとか」
「でも宿の用心棒みたいなのになってるって聞いたし、絡まれてるところ助けてもらったって人もいるって」
それはもう何の含みもない表情だった。私としては壁際にいる時に目の前に爆弾を投げられた気分である。
しかし改めて他の人の口から聞いてみると、私って強いんじゃないかと思えてきた。そうだよね。魔法云々は言えなくとも、追い払えるのは事実だ。でもその説明を、私は魔法という言葉を使わずに説明する術がない。
「町の人たちが、最近変なの少ないって喜んでたもの」
だがここまで言われて嬉しくないはずがなかった。治安維持に協力できるなんて嬉しい限りだ。きり丸くんや他の小さな生徒たちも出かけるだろうから、学園にとっても悪い話ではないだろう。
「あやめさん、それって本当なんですか?」
善法寺くんが首を傾げながら聞いてきた。本当なら何の戸惑いもなく頷けるはずなのに、魔法という力がそれを邪魔する。
どうしよう、何と答えたらいいだろう。正直な話、立花くんに嘘がつけるとは思えない。
「あー、」
迷いつつ、適当にはぐらかそうとした瞬間だった。
「もし本当に強いなら、桐野さんが足を怪我することもなかったはずですよ」
からりと開けられた戸に、聞きなれた声。これは間違いなく竹谷くんだ。
「すみません、話の途中に失礼します。学園長に桐野さんを連れてくるようにとことづけられまして」
「竹谷くん」
何というタイミングだろう。計っていたとしか思えない登場だ。そこにしびれるあこがれるー!!
するりと医務室に入ってきた竹谷くんは、素早く私の側によると肩を貸してくれた。すごく助かる。すごく助かるのだが、話を中断しても大丈夫だろうか。これなにか隠しているとしか思えない対応なんだけれども。
そしてそう思ったのは私だけではなかったようだ。タカ丸さんの発言から何も言わずに考え込んでいた立花くんが、竹谷くんを呼び止めた。
「竹谷」
さすがに先輩は無視できないのだろう。竹谷くんは普通にそちらへ顔を向ける。
「はい」
「害がないのは分かるが、平気なのか」
「問題はないです」
立花くんの目が少し細くなる。竹谷くんもそれ以上何も言わない。
善法寺くんが途中で呆気にとられたような表情をした。え、どうしてそんな顔をするんだ。すると立花くんも難しい顔をしていた。だからどうして。タカ丸さんだけきょとんと何も分かってない様子だった。私と同じです。
「……そういうことです。では、失礼します」
「わ、」
竹谷くんは肩を貸してくれているが、私には立花くんが用意してくれた松葉杖がある。それを教えたくて裾を引っ張れば、彼はそれにようやく気がついたようだった。
「あ、すみません」
「何度も肩を貸してもらうわけにはいかないから、ね。あの、立花くんも善法寺くんもありがとう。タカ丸さんも、また今度ね」
恐らくもう医務室へは戻らないだろう。バイバイの意味を込めて軽く手を振った。手を振り返してくれたのは、タカ丸さんだけだった。
...end
竹谷の「問題はないです」後は立花と矢羽根での会話
20120617