「あの、竹谷とあやめさんって知り合いだったんですか?」
善法寺くんがそう尋ねてきたのは、私の手足の治療が終わってしばらく経ってからだった。
竹谷くんは私を医務室へ届けると、すぐに杖の捜索へ出発してくれた。本当に感謝の言葉だけでは言い表せない。
「はい。少し前から色々お世話になってて……そういえば竹谷くんも忍者の卵だったんですね」
知らなかった。忍者なのは最初の出会い方で分かっていたが、彼はあれでまだ学生なのか。学年云々は分からないが、きっと上級生だろう。
「そうだったんですか……えっと、その、もしかして恋人とかそういう……」
「はい?」
「えっ違うんですか」
どうしてそういうことになった。少し状況を考えてみる。
突然来ることになった忍者の学校。私が巻き込まれたことに怒る竹谷くん。そのまま抱えて医務室に直行。
これは確かに勘違いするかもしれない。だがそれは、竹谷くんの名誉のためにもしっかり否定しておいてあげなければ。
「違います。断じて違います。恋愛のれの字も掠っていません」
出会い方も出会い方。しかもお互いに生きる世界が違うことも知っている。私は竹谷くんを昔の時代の人として見るし、彼は私を不思議な力を使う次元の違う人と考えているだろう。純粋な男女ではないのだ。恋愛に発展するのはなかなか難しいに違いない。
「随分はっきり否定されるんですね」
「それは、竹谷くんに好きな人がいたら迷惑でしょう」
というか、誤解されるの嫌なのでもう会いませんとか言われたら悲しい。以前よりこちらに知り合いは増えたとしても、全部知っているのは竹谷くんだけだ。
善法寺くんは私の回答にひとまず満足してくれたのか、一応その話題は終わらせてくれた。
「薬も思ったより強くないようですが、大事をとって一日は安静にしていましょうか。足の捻挫もありますし。手首のほうは跡も残らず治りますから、安心してくださいね」
にっこり笑う善法寺くんも癒し系である。
「ありがとうございます」
でも竹谷くんが杖を見つけてくれたら、ここに留まる理由もないのだ。出来るだけ早く帰ってしまいたい。
忍者の学校には興味はあるが、竹谷くんの口からこの場所を聞いたことはなかった。ならここは、恐らく本当に秘密でなければならない場所なのだ。自己主張がどんなに激しくとも。なら部外者が居るのは不味いだろう。魔法学校が、魔法省が、マグルという一般人を避け続けていたのと同じように。
さて、格好いいことを考えていても、締まらないのが私である。その法則は今も発動してくれた。
空腹でお腹が鳴ったのだ。
しかもこの医務室とても静か。善法寺くんの他にもう一人きり丸くんと同じ忍者服の子がいたのだが、特に話もしていなかった。後はもう分かりますね!しっかり響いてくれましたとも!!
「……確かにお腹空きましたね」
お腹を押さえながら胃に向かって空気を読んでくれと訴える私を余所に、善法寺くんはフォローか追い討ちか分からない発言をしてくれる。ここは聞かない振りをして欲しかった。
「でもそろそろ仙蔵が食事を持ってきてくれるはずなんですが……」
「えっ」
「どうして驚くんですか」
「あ、いや、それは嬉しいんだけど……その、勝手に巻き込まれてた身としては、そこまでやって頂くと」
怪我の治療もしてもらって、泊まらせてもらって食事までとか。どれだけ至れり尽くせりですか。この時代の薬も食料も、私の時代とは価値も重みも違うのは多少理解している。これは本気で恩返し的な何かをしないと、私の良心が呻き始めるぞ。
「律儀ですね。きり丸ならきっと、タダなら貰っておくべきと力説しますよ」
「それはそういう状況の場合です。私も一応働いているし、そもそも竹谷くんの学校にそこまで世話になるわけには……!」
もうとにかく彼には世話になっているのだ(こちらの知識的な意味で)。初めの黒服撃退の分の恩なんて、とっくに利子つきで返されていると思う。
「しかし食堂のおばちゃんがあやめさんの為に作ってくださったのですから、これは残さず食べてくださいね」
力説している途中で、立花くんがお盆を持ちながら入ってきた。君、いつから聞いてたの。
「伊作の律儀ですね、の辺りからです」
「そうですかー」
口に出していないのに答えてくれる。もう立花くんについては驚かない。立花くんと言うだけで、心を読まれても仕方ない気にさせられる。開心術とか普通に会得していそうだ。
「とにかく、これは食べてください。おばちゃんはお残しは許してくれませんよ」
目の前に置かれたお盆の上には、胃に優しいものばかりが乗っていた。これはいわゆる病人食だろうか。
「これはお前にだ、伊作。どうせここで食べるつもりだったんだろう」
「わ、ありがとう仙蔵。そうだ、乱太郎も夕飯食べに行ったらどうだい?ここはもう大丈夫だから」
「あ、はい!」
時折こちらの様子を伺っていた男の子が、名前を呼ばれて飛び上がった。乱太郎、といっただろうか。きり丸くんと同じ服装をしているし、友だちだったりするのかな。
出て行く背中をぼんやりと見送って、それからすぐに盆の食事と向き合う。私に用意されたってことは食べるべきだ。残すなんてあってはいけない。ええ、お腹、空いてますとも!
「では、お言葉に甘えて頂いちゃいます」
しっかり手を合わせながら言えば、善法寺くんは苦笑しながらどうぞと言った。立花くんも手を合わせて、すでに食べ始めようとしている。
「……立花くんって、結構マイペースですよねー」
「あやめさんに言われたくないです」
淀みなく返された言葉には随分棘を感じました。


...end

三人で夕飯
20120531
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