「ここが忍術学園……」
驚きつつ門を見上げている私を、隣りに座っているきり丸と荷台を引いていた善法寺くんがやや暖かい眼差しで見てくる。どうしてそんな目で私を見る。普通驚くでしょう。初めてだもの。忍者の学校とか日本人として心躍らないわけにはいかない。
立花くんは特に何も思わなかったようで、そうですよ、なんて相槌を打ってくれているというのに。もしかしてこれは立花くんのスルースキルが半端ないだけだろうか。そうだとすれば悲しい。
「なに……」
「いや、あやめさんの反応が新鮮というかなんというか」
きり丸くんは睨めないので、恨めしげに善法寺くんを見ると、彼はもごもごと言い訳した。
「一応極秘に建てられている学園なので驚くのが普通なんだな、と」
「ごくひ……」
私は門の横に掲げられている看板を見る。どう見ても「忍術学園」と書いてあった。これが極秘?随分思いっきり自己主張する秘密だ。
「あやめさん、あんま細かいこと気にしちゃダメっすよ」
きり丸くんにそう言われたので考えることをやめる。ここに通っている彼に言われたのだ。従って悪いことはないだろう。
そうこうしているうちに中の人に連絡が行ったのか、門が開きだした。荷台を入れるためには横の小さな扉では入れない。
中をそっと覗いてみれば、そこは本当に学校だった。校舎らしきものはあるし、他の生徒らしき子どもも見える。なんというか、こう、感動する。確かにこの時代には有り得ないようなシステムだけれど、現代と似たような箇所があるのは嬉しい。
「なんか……いいなあ、」
「何がっすか?」
私も学校をつい最近卒業したばかり。けれどこうやって離れてしまっているのだ。懐かしく感じないはずがない。
「学園って、青春が一杯詰まってる感じ」
「……感想が枯れてますよ」
立花くんに突っ込まれた。ほっといてください。


その後はこまつださんという事務員の方にサインを求められて応じ、無事、学園内に入ることになる。事務員さん、すごくのんびりした人だった。笑顔なんか完全癒し系だと思う。この分だと帰りも顔を合わせることになりそうだ(帰りは出門表にサインお願いしまーす」と言われた)。
「とりあえず治療を先に終わらせてしまいましょう」
善法寺くんは何が何でも治療を終わらせたいようだった。まあ事実、足のほうは熱を持ち始めたらしい。じわりじわりと感覚がおかしくなってきている。
「立てます?」
「……使えませんけど、支えがあれば何とか立てると思います」
そんな私に善法寺くんは跪いて、なんと、がっつり足を掴んでくれた。
「!!!!」
痛いとかそういう問題ではないぞ善法寺くん。何をしているんだ善法寺くん。今すぐ蛸足の呪いでも掛けてやろうか善法寺くん!
「やっぱりすごく腫れてる!どうして何も言わないんですかあなたは!!」
「おう、うう、いた、本当に痛かった」
「固定する前に冷やすべきだった……」
呻く私は完全スルーのようです。
痛みで涙目になっていると、ふと視線を感じる。なんとなく顔を上げればそこには、

唖然とした竹谷くんが立っていました。

「った、」
「桐野さん!?」
手に持った籠らしきものが地面へ落ち掛ける。けれど竹谷くんはそれをかろうじて持ち直すと、恐ろしい速さで荷台の側までやってきた。さすが忍者である。
「なに、何やってるんですか!」
荒げられた言葉に思わず身が竦む。これは完全に怒っている。だが仕方ない。竹谷くんは確かに、私に気をつけるように忠告してくれていたのだから。
「いやーちょっと色々ありまして」
「いろいろありましてじゃ、もう、ほんとどうして!」
竹谷くんの視線が私の全体を確かめる。そして応急処置された手首と足を見て、少し表情を歪めた。
「理由は、後で聞きます。……善法寺先輩、この人は医務室へ連れて行けばいいんですか?」
怒る竹谷くんの様子に驚いていた善法寺くんが、我に返ったように頷いた。
「あ、うん」
「分かりました。桐野さん、失礼します」
竹谷くんは私の返事を待たずに抱えあげる。正直肩さえ貸してもらえばどうにかなったのだが、この空気ではそんなこと言い出せない。別の誰かが何かしら言ってくれたらと、ほんの少し期待しながら立花くんときり丸くんを見ようとすると。竹谷くんに阻止されました。なんてことだ!
そのまま口を結んで歩き始めた竹谷くんに、私は恐る恐る問いかける。このまま沈黙を守ってなんていられない。息苦しくて呼吸困難を起こしてしまいそうだ。
「あの、怒ってる?」
「……怒ってます」
竹谷くんのいいところの一つは、私の問いに律儀に答えてくれることだ。
「俺は気をつけてくださいって言いました。騒ぎに巻き込まれないように、とも」
「す、すみません」
竹谷くんが話す音量をぐっと落とした。
「桐野さん、あなたが言ったんですよ。魔法がばれたらここには居られないだろう、だから秘密にって」
言った。間違いなくそう言った。人というものは大半が保守的な考えを持っている。そして大きな力を持ったものは、いつの時代も嫌悪されるものだ。特にそれが、理解を超えるものであるならあるほど。
そう考えれば私の使う魔法なんかは、完全に迫害されるレベルのものだろう。なんたって、私の世界でも昔は魔女狩りが(被害を受けるかは別として)横行していたのだから。
「だ、大丈夫、その件は誰にも知られてないと言うか、それ以前に」
はっとする。これは言いにくいことだ。自分で招いたこの状況を、竹谷くんに助けてもらう。気は進まないが、この場合、もう彼しかいない。
「つ、つえをおとしまして」
「……それってまずいんじゃ」
「絶体絶命です。ライフゲージは真っ赤に点滅しています」
竹谷くんは思わずといったように立ち止まった。彼の視線がしっかりと私の視線と合う。
「で、どの辺りに落としたのかは分かりますか」
「た、竹谷くん……!」
私の心は感動の嵐だ。
「探すの手伝ってくれますか」
もうこのまま例の場所まで連れて行ってくれてかまわない。
「手伝うも何も桐野さんと俺しかわからないんだから、俺が行きます。あなたは善法寺先輩か新野先生の治療を受けながら待っていてください」
「え、」
「え、じゃないです。治療を必要とするくらい酷いんでしょう。そんな怪我人を連れ回したりはしません」
竹谷くんは再び歩き出して、建物の中に入っていった。本格的に学校だ。完全な校舎だ。もう時代錯誤とかそういうことは考えないことにしよう。
「……ところで、他に怪我はありませんか?」
「あ、うん。他はない。縛られてただけだったし」
「そうですか」
竹谷くんはこちらを見ない。
「無事でよかったです、本当に」


...end

置いていかれた討伐組
20120528
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -