「だから、ホントに大丈夫です。あの森の入り口まで連れて行っていただければ、あとは問題なく帰れますから」
「絶対に駄目です。足も腫れてるんですよ?動けば悪化します。そもそもその足でどうやって帰るって言うんですか!」
「それは企業秘密です。それに宿に帰れば薬もあります。だから大丈夫……」
「いえ、歩くのは無理です。保険委員として無茶は絶対にさせられません。討伐に巻き込んだ責任もありますから」
私vs善法寺くん。お互い譲らないせいで、随分長い間見詰め合っている。私は早く杖を探しに行きたい。善法寺くんは私の怪我をしっかり治療したい。
普通はお言葉に甘えて……と言ってしまうのがいいのだろうが、少し事情が違う。ある意味一刻を争うのだ。
先ほどまで次から次へと起こる予想外の出来事に頭からすっかり抜けていたが、私は今、杖が無いのだ。しかも道に落とすという最悪のケース。もし万が一捨てられたり折られたり焚き木にされたりすれば、いろいろな意味で終わる。魔法使いの杖は一見普通の木の棒にしか見えないのだから。
「どうしてそんなに学園へ来ることを嫌がるんです?」
「別に学園へ行くのが嫌なわけじゃなくって、ちょっと急ぎの用事があってですね」
善法寺くんもなかなかしつこい。こうやって応急処置もしてくれたのだから、十分だと思うのだが。ああ、早く杖の無事を確かめたい。
「……ならあやめさん、ちょっと立ち上がってみましょうか」
それまで静観していた立花仙子さん改め立花くんが、唐突にそんなことを言った。
「仙蔵、」
「怒るな伊作、何も足を使わせようというんじゃない。痛めた足を庇ったままでもいいですので、立ち上がれますか?」
なかなか無茶を言う。だが立ち上がれなければ私の目的地である誘拐現場へは連れて行ってもらえないだろう。
私はそっと立ち上がろうとした。が、
「え、」
眩暈がする。ぐらりと視界が揺れて再び地面へ座り込んでしまった。
「お忘れのようなので、ご自身の状態を確認していただきました。あやめさんが吸い込んだ薬は意外と強力ですよ。最低一日は、経過を見なくてはなりません」
穏やかに言う立花くんは、一筋縄ではいきそうにない人だ。彼はそのままさっきと同じように私を抱えあげると、有無を言わせない笑顔で歩き出す。
「ちょ、」
「ああ、暴れないでください。万が一落としてしまったら大変ですからね」
そう言われてしまったら、反論の余地なんて無かった。
杖、本当にどうしよう。


周りの様子を見ていると、やはり誘拐されたうちの何人かがその忍者の学園へ連れて行かれるようだった。私と同じように薬を吸い込んでいたり、何日か拘束されていたせいで弱っていたり。
しかし驚いたのが、あの目が覚めた部屋にいた何人かの女性が男の子だったことだ。立花くんと同じく変装してわざと捕まっていたらしい。誘拐した人をどこに運ぶか調べていたのだろう。
そう考えると、私ときり丸くんは本当に偶然狙われてしまったということか。この場合エンカウントしたことに嘆くべきか、ほとんど何事も無く助かったことに喜ぶべきか悩むところではある。
アニメーガスを使う羽目にならなかっただけマシだと思っておこう。うん。
しばらく立花くんに抱えられたまま歩くと、ある程度整った道へ出た。そこには荷台がおいてあって、すでに二人ほどそこに寝かされている。これに乗せて学園へ向かうのだろうか。
「さ、これに乗りますよ」
予想通りに立花くんはそう言うと、私を荷台の端のほうへ降ろした。板に腰掛けて、足を遊ばせるような体勢だ。
「……すみません、」
「いえ、……それはこちらが言うべき言葉でしょう」
「え?」
「きり丸を送って巻き込まれたのだと聞きました。本来ならこんなことにはなっていないはずですから」
立花くんはそれだけ言って踵を返した。おそらくまだ何かやることがあるに違いない。だがひとつだけ、ひとつだけ訂正しておきたい。
「立花くん!」
彼が立ち止まる。
「私は好きでやったことだし、それにこんなことがあったのを後から聞いたりしたら、きっと後悔する。どうして送ってあげなかったんだろうって」
送ってこの体たらくだが。
「この状況は、私が私の責任でなったことだと思う。だから謝る必要なんてない、です」
最後の最後で、この人が年上かもしれないと私の脳が判断してしまう。いつものことだが締まらない。
けれど立花くんはこちらを見て「そうですか」と苦笑いしながら言った。……馬鹿にはされていないと思うが、どこか引っかかる苦笑ですね。しかしそれ以上は何も言わずに歩いていってしまった。
「しかし、本当にどうしようか」
もういっそこのまま、箒かマットに乗って帰ってしまおうか。箒のほうは懐に小さくなって入っている。ああでも大きさを戻す杖がない。
こう考えると、私って本当に杖がないと何も出来ない気がする。これからはこういう状況も考えて、杖なしでも出来ることを増やしておくべきだろうか。真剣に考えよう。
「あやめさん、」
きり丸が走ってくる。ちょこんと荷台の、私の隣に座った。名前を呼んで笑ってくれるきり丸を見ながら、何事もなくて良かったと心から思った。
やっぱり杖なし魔法の方法は考えておこう。


...end

忍術学園へゴー!
20120524
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