起き上がることに四苦八苦していると、大きな音を立ててどこかが開いた。視線をそちらへ向ければ、そこには大きな男が二人。男たちは部屋の中をぐるりと見渡すと、愉快そうに笑った。
「随分多いじゃねーか」
「これなら当分困らねえぜ」
この会話からして完全に誘拐犯だろう。二人。外には一体何人居るのだろうか。……と、ここまで格好良く考えていても私の身体は床に投げ出されているわけだから、はっきり言って締まらない。
せめて縄が緩ければどうにかして抜け出せたかもしれないが、どうしようもないくらいきつく縛られているのだ。これホント容赦ありませんね!手首が痛い。これ絶対擦れてると思う。
「大事な商品だけどよー、一人くらい楽しんでもいいだろうに」
「やめとけって、頭に言われてんだろ」
ずかずかと入ってきた男たちは、やはりというかなんというか、真っ先に仙子さんの元へと歩いていった。正直全く笑えない状況だ。
ちらりときり子ちゃんを見る。表情は引きつっていた。仙子さんは俯いたまま動かない。

深呼吸をした。呪文を使うというよりも、身体を変化させるイメージをする。杖がなくとも出来る魔法のひとつ、アニメーガス。動物もどき。
私の学生時代の半分以上は費やした、懇親の変身術。その為に癒しの呪文関連はほとんど捨てた。出来ないことをやるよりも、得意なことを伸ばすほうにしたのだ。

じわり。身体に変化が訪れようとした瞬間だった。開いていた扉から、何かが投げ込まれたのは。
「え、」
私の声に男二人が反応するも、それはかっと光った。それはもう思いっきり。とっさに目を閉じたが、頭の裏までチカチカする感覚。あ、これ当分もの見れない。
世界が音だけになる。ぎゅっと目に力を入れると、人が殴られるような鈍い音がした。何が起こっている?
「あやめさん、大丈夫ですか?」
「き、きり子ちゃん?」
きり子ちゃんの声がして、そっと目の辺りに小さな手が添えられた。手?え、縄は?
「もう大丈夫っす。先輩たちが来てくださったんで!」
目に当てられていた手はすぐに私の背に回り、何かで縄を切ってくれているようだ。ぶつりという音と共に身体が締め付けから開放された。長い間縛られていたのか、手足がじんじんする。
立ち上がろうとして、けれど身体を起こすのが精一杯だった。頭はくらくらするし、全体的にだるい。
「あんま動かないほうが……多分、思いっきり薬を吸い込んでるから」
そういえば、つかまる前にそんなことがあった。呪文を唱えるのに息をしないわけにはいかないから、きっと無意識に深呼吸クラスで呼吸していたのだろう。そりゃ吸い込みますね。
「時間が経てば大丈夫らしいんで、動かず我慢してくださいって」
背中に小さな手の感触がする。それにほっと息をつくも、安心はしていられない。
さっきの投げ込まれたものは?きり子ちゃんの言う先輩たちって?
疑問は浮かんでくるも、視界がどうにもならなければどうしようもなかった。いまだ白い視界をどうにかしたくて手で目を擦る。だがそれは、別の手に止められた。きり子ちゃんではない。大きさが明らかに違う。
「っ、」
「擦らないで。ああ、手も怪我してる……」
動揺して手を振り払いかけるが、酷く心配そうな呟きにギリギリで留まった。
「善法寺伊作先輩」
「大丈夫だよ。きり丸は大丈夫?」
「はい、大丈夫っす」
見えないからこそ静かにしていられるが、私の頭はオーバーヒートを起こしそうだ。本当に何が起こっているのか。疑問は次々と浮かぶのに、その量が多すぎて吟味できない。
「あ、仙子さんは……」
きり子ちゃんはここにいる。なら仙子さんはどうしたのだろう。近くに男が二人いたのだ。何事もなければいいのだが。
すると私の手を見ていたらしい人の手が、ぴくりと反応した。背中の小さな手もどこか脱力する。
「あやめさーん、それほんっと、ほんっともう!まず自分の心配してくださいよ!」
きり子ちゃんに怒られてしまった。
「いやでもだって、そこは一番危険そうだった仙子さんを心配するべきでしょう。私は大丈夫っぽいし……というか、きり子ちゃん仙子さんのこと知ってるの?」
とりあえず、簡単そうな疑問から。けれど答えたのはきり子ちゃんではなかった。
「本当に聞いた通りのお人好しですね」
仙子さんの声だった。ついでに身体に浮遊感。膝裏と肩辺りの腕の感触に、自分が抱えられたのが分かる。
「え、」
「ああ、暴れないでくださいね。落としたら大変ですから」
そして耳元で聞こえる仙子さんの声。……まさかこれは、仙子さんに抱えられているのだろうか。そんなまさか。
「や、あの、いや、おかしい。おかしいです仙子さん。随分逞しい……じゃなくて、明らかに第三者から見たらアンバランスなことに」
私は袴姿だ。仙子さんは美しい着物姿。明らかにポジションが逆じゃないか!落とされたらたまらないので、静かに自分の意見をあげてみた。
「あやめさんって、結構突っ込みどころがずれてますねー」
既にきり子ちゃんの感想が棒読みだ。でも言いたいことや聞きたいことが多すぎて、どうしようもなくなっている私の気持ちも考えて欲しい。切実に!


...end

犯罪組織討伐の任務実習
20120515
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