「一年は組のあの三人に、ですか……」
「え、そんなに深刻な顔をするほど不味いの?そのため息はあっさりばらした私に対してなの?そうなの??」
久しぶりに運良く会うことの出来た竹谷くんに、つい最近あったきり丸くんの薬草摘みのバイトの話をすることになった。話したことを隠しておくのは竹谷くんに対して不誠実である気がしたし、正直隠したままにしておけるとは思わなかった。だからすみませんと前置きした上で、きり丸くんたちは知っているの、と説明したのだ。
しかし額に手をやって、しかも深刻そうにため息をつかれたら、さすがの私でもちょっと焦ってしまう。やっぱり魔法を使ったのは不味かったのだろうか。実は物凄く呆れていて、そろそろ見捨てられるところまで……。やめよう。ネガティブな思考は危険だ。
「ああ、いえ、そうじゃないです。学園長に話を通した時点で、こうなることは薄々……」
「私が魔法を使うことを?」
「……はい、」
竹谷くんの歯切れが悪い。頷いた彼をじっと見続けていると、手でさっと視線を遮られてしまった。それでも諦めずに見つめていれば、手が退かされて困ったような表情の竹谷くんが降参のポーズをとる。
「多分、気が緩むだろうなって」
「!!」
竹谷くんの言う通りである。正確に言えば緩んだというより、こちらの世界の魔法に対する反応への期待が出てきてしまったというかなんというか。
「初めのあやめさんは絶対にばれてなるものかって雰囲気でしたけど、今はそうでもないですもん」
「そんなに?」
「そうですね。元々詰めが甘いところはあったけど、このところはそこまで葛藤しないでしょう」
そんなに、だろうか。やっぱりもう少し気をつけたほうが良かったのだろうか。後悔が湧き上がってくるのに、心の中では「でも」とか「だって」という言い訳が出てくる。
でも、魔法は使わずにはいられない。だって、魔法を見た彼らが怖がらずにいてくれるから。
「ああ、あやめさん。一応言っておきますけど、それは悪いことじゃないですよ」
「?」
「多分放っておいてもあやめさんは、学園の生徒の前で魔法を使用することになっていたと思います」
そこまで言って、竹谷くんは笑った。それから私から視線を外して、遠くの景色を見ながら続ける。
「それが、学園長先生の狙いでもあるでしょうから」
話の意味を良く考えた。生徒の目の前で魔法を使わせることが狙い。私が帰るのに協力は惜しまない。竹谷くんからの"狙い"についての話。シナ先生の関わるのなら小さな学年からという言葉。
「……もしかして、私が敵になるとか思われてる?」
「敵になる、というよりも、保険でしょう。それと情報収集」
「保険?」
「あやめさんの力は、やっぱり俺たちにとっては脅威です。どうしても、それがこちらに向けられたらというのを考えてしまう」
それはまあ、普通の思考だ。
「でも学園長先生は、あやめさんが学園に矛先を向けることはないだろうと踏んだんです。それでもこの先きっと、内部から不安や懸念が出てくる。その為の保険です」
竹谷くんが改めて私を見て笑う。
「学園長先生の思う壺に嵌りましたね」
「……しかも物凄く順調に、ね」
思う壺に嵌ったと言うわりに、竹谷くんは嬉しそうだ。もしかしたらその内部から出るであろう不安や懸念を一番心配していたのは、彼なのかもしれない。少なくとも今、私を一番気に掛けてくれてるのは竹谷くんだから。
「でもそれなら、ハチくん込みで生徒と関わらせた方が安心じゃないのかな」
「ああ、それは俺も思ってたんですけど、最近余計に実習やら補習を入れられている気がしてどうにもならないというかなんというか」
やはり会えないのは気のせいではなかったらしい。詳しく話を聞けば、課題の量も増えているとかなんとか。しかも先生がうっかりこぼした話によると、増やす指示をしているのは学園長。
「三郎も首を傾げるくらいですけど、学園長先生には先生なりの考えがあるでしょうから……うん」
そうは言いながらも、やはり多少の不満はあるようだった。私は軽く背中を叩いて励ましの言葉を送ることしか出来ない。力になれなくてごめんね。
「でもあやめさん。いくら学園長先生の計画の内といっても、力は出来るだけ出し惜しみしてください。いつ誰がどこで見ているか分からないですし、その力を知る人が年上なら上であるほど、純粋に驚いてはくれないものですから」
肩を掴まれて力いっぱい言われた。
「でもまさか、一番初めが、は組の三人……」
「そんなに不安?」
「それは、まあ……学園のトラブルのほとんどは、は組が持ってくるって言われていますし」
ほとんど、か。そこまで言わせるのならば、土井先生の苦労は計り知れない。きり丸くんが言っていた、胃痛がひどいというのも頷けてしまう。
「正直悪気がなくても、うっかりというやつがありえますから」
あの灰から出来た小鳥を渡したのは不味かっただろうか。まあ普段は動くようにはしていないし、彼らの「言ったりしません」を信用するしかない。
「まあ、大丈夫じゃないかな」
自分に言い聞かせるようにしてそうこぼせば、竹谷くんが目を細めた。あ、なにか勘付いたのだろうか。
「あやめさんが危険なものを渡したりしていなければ、俺は何も言いませんけど」
「き、危険なものなんて渡さないよ。一応お守りみたいな役割くらいは、果たすと思うし」
守りの呪文をかけた小鳥は、きっと彼らをできる限り助けてくれるだろう。私の実力の範囲というのが少し不安ではあるが。
「あ、そういえばあやめさんから頂いていた例の薬、部屋から見つかって。あれ、返したほうがいいですよね」
「?」
「ほら、一番最初に渡してもらった」
すぐにはぴんと来なかったが、ビンの大きさや薬の色を教えられてようやく行き当たる。
「一時的に怪我を治すやつ?」
「はい」
「いいよ。あれはハチくんにこそ必要そうだからあげる。それに私、実はもう一本持ってるし」
どうしてあんなものを製作したのかは、その場にいた友人と私の、ノリとテンションしか知りえないだろう。すると竹谷くんは少し笑った後立ち上がった。
「また数日学園を離れるので、久しぶりに会えて良かったです」
竹谷くんは衝撃的なことをさらりと言う。
「……ハチくん初めに、帰ってきたばっかりだって言ってなかった?」
「はい。前日の早朝に」
「いくらなんでも忙しすぎない?」
「確かにそうですけど、こればかりは個人ではどうにも」
よくよく観察すれば、竹谷くんの顔に疲れが見える。
個人的にはなんとかしてあげたいが、自信の少ない魔法をほいほい使うわけにもいかないだろう。そもそも私のはあやしいものの方が多いわけだから、薬を渡して万が一何かがあってはいけない。
……しかし。
「でもそれ、私でも動きすぎだって思うんだけど……その、私と関わっていることでペナルティとかそういう落ちじゃないよね?」
「あ、それは絶対にないです。もし学園的にアウトなら、課題を出すよりも外出禁止のほうが利きますから。特にこういう場合」
それでも心配になるのが人の性。
「それに任務や課題は数をこなしてこそ、ですから!」
明るい笑顔が非常にまぶしい。それにちょっとどきどきした心臓を落ち着けるために深呼吸。竹谷くんは不思議そうな顔をしたが、特に問題はない。
「……じゃあ、怪我には出来るだけ気をつけてね」
怪我をしないなんて難しいだろうから。そういう言葉しか掛けられない。それでも、こういう風に言えるのは幸運なのだろう。初めの頃はそんなこと教えてもらったことなどなかったし、普通は言わないものだと鉢屋も言っていた。
「はい、あやめさんも。一応雷蔵には頼んでおきますし、一年は組の三人についても報告はしておきます」
「う、お、お手数お掛けしまして」
恐らくこれからも、魔法を知る人は増えるだろう。私がそれを問題ないのかもしれないと考えて、学園もそれを望んでいるならば。そして、生徒が魔法を受け入れてくれる限りは。


...end

魔法隠匿に関しての心変わり。
魔法も込めて「あやめ」。そもそも魔法ばっかり使ってた魔法使いが、突然マグルオンリーの世界に放り込まれて隠しとおせるはずがない。
それにいち早く気がついたのは竹谷で、次にシナ先生。最後にあやめ。
20180412
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