「え、じゃあ花を咲かしたのも魔法ってことですね」
初めよりは落ち着いてきたきり丸くんが、そんなことを言った。それに私は否定することなく頷いて、手の上に花を咲かせて見せる。
「ゼロから作り出すのは難しいけど、出来ないことはないよ」
花は何輪かに増えて、手のひらにギリギリ収まるくらいでようやく止まる。それが今度は炎を上げて、勢いよく燃え上がった。残念そうな表情をされるが、魔法はまだ終わらない。
手の中に灰が積もって、それを誰にも掛からないように吹いてやった。その灰の中から出てきたのは、七色の小鳥だ。ちゅん、と小さく鳴いて、きり丸くんの頭に飛び乗る。
「お、わ、わー」
「え、今どうやって出したんですか!」
「おやつは出せますか!!」
一人明らかにおかしな質問を投げかけてきたが、気にしない。突っ込んでいたら説明が進まない。
「灰から小鳥へ変化させたの。意思は持っているけど生きてはいないから、濡れたりすれば水に溶ける」
そっと手を差し出しても、小鳥はきり丸くんの頭から戻ってこなかった。
「気に入られたみたい」
「……へへっ」
きり丸くんは照れたように笑って、頭上から小鳥を取り上げる。逃げないその鳥に、乱太郎くんもしんべヱくんも釘付け。
「あっ、でもあったかくない」
「そりゃ元は灰だからね」
大人しい小鳥をつつく三人を見守る。良かった。怖がられてはいないようだ。
「……このまま進んで、一旦人気のないところに降りようか」
夢中で聞こえていない。気づかれないようにゆっくり移動すれば良いかと勝手に決めて、空飛ぶ絨毯は高度を下げつつ進み始める。
途中で小鳥は乱太郎くんに渡された。きり丸くんがそっと寄ってきて、内緒話するみたいに顔を近づけてくる。
「あの、自分も変えられるんですか?」
動物もどきのことだろう。私はそれに首を振る。
「今のとさっきのは、全く別の魔法。私はどんなに頑張っても、あの虎以外にはなれない」
「……虎に、なれるんですか」
それには頷く。多分色んなことを考えているだろう。私が虎として学園に行ったときの騒ぎも思い出しているかもしれない。
「あの、じゃあ、おれは乱太郎から聞いたんですけど、助けに来た虎って、あやめさんのことなんですか?」
「私が虎って知らない人は知らないけど、そうだね。私だよ」
小鳥をしんべヱに渡した乱太郎くんが、勢いよく手を上げた。
「はい、乱太郎くん」
「ぼくはその話を善法寺伊作先輩から聞いたんですけど、伊作先輩は知っているんですか?」
「知りません。多分知ってるのは、学園長先生と山本先生、それに生徒が何人か」
生徒が何人か。きり丸くんは知っていそうな人の名前を挙げていく。
「竹谷先輩は絶対だとして。あっ、伊賀崎先輩もか!」
三人の心底納得しました。そう言いたげな表情に、思わず笑ってしまった。
「あの人がペット以外にあんなに優しいの、初めて見ましたもん」
「孫兵くんは人には素っ気ないからねー」
首に真っ赤な蛇を巻いたあの姿は、人からは敬遠されるだろう。顔が綺麗だから余計に怖い。
「あとは……七松先輩と、中在家先輩?」
「いや、二人は知らない。虎としてしか会ってない人もいるんじゃないかな」
質問や予想は次々と出てくる。私はそれに一つ一つ答えてあげていく。知って薄れる恐怖もあるのだ。
「あ、そういえば、"あやめちゃん"もあやめさんなんですか?」
乱太郎くんから鋭い指摘。その辺りは少し前のことだから、話題には上らないと思っていた。きり丸くんが伺うようにこちらを見たので、嘘はつけない。つくつもりもない。
「うん。まああれは事故だったんだけど」
「きり丸は知ってたの?」
「まあ、うん」
「私が内緒にしてねってお願いしてたから」
その場にいなかったしんべヱくんは鳥に構うのに夢中で聞いていない。
「一定の年齢まで引き下げる薬があるの。その薬品をうっかり被って、宿を追い出されちゃってね」
魔法について、彼らはひどく興味を持ったようだった。何が出来るのか。同じ人はいるのか。
私はそれに丁寧に答えていく。山本シナ先生は言っていた。攻略するならこの年齢から。それを鵜呑みにするわけではないが、信じられないわけでもない。
「でも、どうしておれたちにそんなこと教えてくれるんですか」
「"秘密"じゃないんですか?」
会話の途中で、すでにマットは地面の近くに降りていた。私はマットの外に足を投げ出して、少し考える。
無事に助かるためにはこうするしかなかった、とは言えない。恐らく方法は他にもあっただろうし、動物もどきをあんな風に使うなんて、無用心極まりない。
でも今後悔しているかと聞かれれば、ない、と首を横へと振れる。それはこの三人が、魔法使いというものとして理解しようとしてくれているからだと思う。本人達はそんなこと考えていないのだろうけど、質問の仕方や様子で、それくらい忍者でない私でも分かる。
「……私が、きり丸くんたちを信用したってことかなあ」
きっと、それに尽きる。私が竹谷くんに何でも話せたのは、私が彼を心の底から信じているからだ。何を話しても笑って頷いて聞いてくれる。遠ざからないで受け止めてくれる。
勿論こんな年下の小さな子どもに、全てを受け入れて欲しいとは言わない。でも、怖がられないとは考えた。怖がらずに話を聞いてくれると、そう感じたのだ。
「だって怖くはないでしょ?」
「当たり前です!」
「当然です!」
「弁当!?」
「ここでボケるなよしんべヱ!しかも当しか合ってない!!」
きり丸くんの鋭い突っ込みに笑いながら、唯一つだけ、心に引っかかっていることを考える。


――竹谷くんになんて言い訳しよう。


...end

あんなに協力してくれていたのにあっさりばらしてしまったから、その辺り(竹谷くんに苦労を掛けたことについて)だけは後悔している。
20150308
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