※ネタ帳みたいな扱いなので、途中できれています。
肩が痛い。斬られた傷から血が流れていく。しかもこの大雨。それでなくとも傷は深いのに、これでは助かりそうにない。
(……私も、ここまでか)
言葉を発することも出来なかった。
学園で過ごした時間、信頼できる友人たち、ちょっと尊敬していた先輩方に可愛がっていた後輩。地べたに這いつくばったまま、遠い過去に思いを馳せる。これが走馬灯というやつだろうか。
卒業してほとんど同時に姿を眩ました私を、友人たちはどう思っただろう。呆れているだろうか。それとも、私らしいと苦笑いしているだろうか。
こういう最後の最後でこんなことを思うなんて、忍失格だ。未練なんて残していたつもりはなかったのに、こんなにも、生きたいと思ってしまっている。
――雨粒が落ちる音すら聞こえなくなっていく。視界が揺れて、傷が痛みではなく熱さへと変わって。ああ、ここで終わりだと察した。
「……、」
友人たちの名を呼んでも、声にもならない。そして私はそこで、
「大丈夫?」
意識を失う前に女の声を聞いた。
「……」
ぼんやりと目を開ければそこは、見慣れない天井だった。起き上がろうとしても身体中に力が入らないことに気がついて、視線だけをぐるりと回す。
見たところ、そんなに悪くない部屋だと思う。しかも寝具もそこそこ、部屋の中に置かれているものも派手ではないが品の良いものばかり。
(一体誰に拾われた?)
少なくとも、倒れる直前までの雇い主の関係者でないことは確かだ。内部の情報を知り尽くした私を、殺そうとした張本人。その本人が助けるはずもない。
では他に誰が。こんな怪しい怪我をした忍を、こんな風に保護してなんの意味がある?普通の人であれば、自分の身すら危険に陥れそうなものには極力関わらない。恐らく私だって見なかった振りをするだろう。
ならばこれは、目的があったと考えたほうがいい。しかも自分にとっては悪い方向への。
頭の中で逃げる算段を立てていく。ここがどういう場所なのかが分からないのは痛手だが、拘束もされていない状態と恐らく治療も施されているのを考えれば、差し引きはない。
しかしあの怪我でよく生き延びたと思う。そっと怪我していたはずの肩に手をやる。その瞬間、どこかで鈴が鳴った。
「!?」
音に驚いて耳を澄ます。板の床の上を走る音が二つ近づいてくる。まさか私の動きを見張るために、どこかに糸が仕掛けてあったのだろうか。
高ぶった神経を出来る限り落ち着かせて目を閉じる。この足音からして、相手は忍ではないはずだ。ならば誤魔化せる。
ぱん、と音を立てて襖が開いた。
「起きた!?」
女の声だった。走ったせいで少し息が弾んでいる。声の感じからして、まだ十代かその辺りだろうか。
「あれ、起きてない……」
もう一つの足音が追いついた。
「若神様、走ると危ないですよ」
「平気、転んだりしないもの」
「しかし、」
いくつかのやり取りで、二人の女は主従関係であることが伺える。しかし呼び方が妙だ。
「若神様に万が一のことがあれば、我々一同お叱りを受けます。どうか、」
「大丈夫。まだ寝ているみたいだし、もし起きても、長く伏せていたからすぐは動けないと思う」
額の辺りに手を当てられる感触がして、動きそうになる身体を意地でも抑える。
「」
導入部分飽きた
「逃げろあやめ!!」
まだ自由に動かない身体。必死で動かしてもあやめには届かない。
目の前で怪しく笑う男は、確かに私を切り捨てようとした男だった。こいつは私だけでなく、彼女も殺すつもりなのだ。
振り上げられた刀。鈍く光る鉄。鋭い光は人の柔らかい肉を切り裂いて、あっさりと命を奪うだろう。関係のない、ただ善意から私を助けたあやめを。自分の不甲斐なさに吐き気がする。目を覚ました時点で何をしてでもここから去るべきだったのだ。そうすれば、あやめが傷つくことはなかった。なかったのに。
「あ?」
だが、男の刀はあやめには届かなかった。間抜けな声を上げて、男は自分の持つ刀を見た。
――刀身が、ない。根元の辺りから綺麗さっぱり消えてしまっている。
折れたのか斬られたのか。そのどちらにしたって、音は聞こえなかった。あやめは片手を男に向けた状態で、ただ立っている。
「あなたが三郎を殺そうとしているの?どうして?」
そうして、そう問いかけた。
「お前には関係ないだろう!それより何をした!今、いったいなにをしたんだ!!」
「関係ならある。同じ人間じゃない。どうして?」
「は?」
「……愧死機構がないなら、あなたは悪鬼?」
男の身体が浮いた。罠に掛かったわけでもなければ、誰かに吊るされたわけでもなく。
「それとも、呪力がない人たちはみんな"こう"なの?」
「私は人に攻撃できない。攻撃すれば、私が死ぬ。そういう風に出来てるの」
「……私を助けたり、守ったりしてくれたのに?」
くないを弾いた。矢を止めた。それを見た兵の驚きは、見ていていっそ哀れだった。
「だってそれは攻撃じゃないもの」
「ならそれで十分だ。人の始末は私が出来る」
その言葉に一瞬あやめが止まる。そうして少し迷って、口を開いた。
「三郎は、本当に死なない?本当に大丈夫?苦しくなったりしない?」
心配そうに繰り返される問いに、思わず笑ってしまった。
「平気だ。私にはあやめのような力がないから、そういう縛りも持たないよ」
新世界より→忍たま。
呪力(念動力)持ち。攻撃抑制および愧死機構有り。