高校二年の夏休み。何故か私は肝試しのお化け役をやることになってしまった。
そもそも初めは行くつもりもなかったのだが、様々な事情とすれ違いによる大変不本意な強制参加である。この原因の一端を担った幼馴染には、必ずや報復をしてやろうと思う。覚えてろよ。

お化け役は集合時間も早めである。お日様は真上へ昇っていて、その熱も半端ない。じりじりする日差しにギリギリしながら、校庭を見渡した。日陰を探すのと、他に人がいないか調べるためだ。
すると既に来ている人たちがいる。こちらにも気がついたようで、手を振ってくれた。私はそれに答えて力なく手を振り返し、彼らの元へ走った。
まず軽い感じに挨拶したのは竹谷だった。
「よっ!」
「ああ、こんにちはー」
「なんだよやる気ねえなあ」
「強制で人のやる気を引き出せるとでも思ってんの?」
「……すみません」
この竹谷の言葉通り、強制参加の原因の一端はこいつだ。項垂れるのを無視して、側にいた不破に手を上げる。
「や、不破もお化け役?」
「うん、そうなんだ。それよりごめんね。三郎が無理矢理頼んだんだろう?」
「ああ、いいのいいの。竹谷と鉢屋は許さないけど、不破は関係ないでしょ」
「この態度の違い!差別だ!!差別反対!!!」
不破に友好的な返答をすれば、それが不満だったらしい竹谷が騒ぎ出した。お前なんか知らん。
「差別ではありません。区別です」
きっぱり言い切って、今度は奥に視線をやる。他にもメンバーがいた。
「尾浜に久々知もいるの?これ二組でって聞いてたんだけど」
「俺たちはゲスト参加!最後のほうで全員が出きっただろうってところでわっとやる役。なかなか面白そうでしょ」
楽しそうな尾浜にちょっと顔が引きつる。なんというえげつない計画だ。視線を肝試しの舞台へと移して、やっぱりちょっと肩を落とす。
舞台は廃校。原因は噂でなら耳にしたことはあるが、噂は噂。ちょっと信じがたいものばかり。だから廃校になった理由は知らない。けれど夏の肝試しに、こんなに素晴らしい舞台はないだろう。
「鉢屋に誘われたの?」
「いや、勘ちゃんは自分で参加したいって言ってたのだ。俺はそれにくっついてきただけ」
質問には久々知が答えてくれた。
「えーだってこんな面白そうなことに参加しないとか、絶対に損するって!」
楽しそうに笑う尾浜を、ちょっとだけ蹴り飛ばしてやりたくなった。
「私もう帰りたい……っていうか、これを計画した鉢屋は、一体どこに行ったの。来てないのあいつだけじゃない?それにクラスでやるのにこんな少ない人数でお化けって無理あるでしょ」
辺りを見ても、鉢屋の姿はない。発案者が遅刻なんて許すまじ。帰ってやろうか。
「いや、実は桐野が最後なんだよ」
不破がそう言って、携帯を開いた。彼はまだガラケーだ。新しいものに変えようとしても、迷ってしまってどうしようもないのだとか。
「ほら、」
不破の携帯を見せてもらえば、それはメール画面だった。見るために本体を受け取って、日に反射しないように手で影を作って読む。
「先に行ってる。三郎……ってことは、もうついてるはずってこと?」
「うん。そうみたい。でも僕らも姿は見てないんだ」
困ったように首を傾げてみせる不破に携帯を返す。竹谷たちにも連絡が行っているらしいが、どれも「先に行く」だけだという。
「変なの」
「桐野はどう?三郎からなんかない?」
「ああ、ちょっと待って」
久々知に促されて確かめる。だが生憎、何のメールもきていなかった。
「来てない……おわっ」
来てないと答えた瞬間、メールが到着したという音楽が流れ出した。驚いて取り落としそうになるが、慌てて掴みなおす。
「げえ、お前なんつーもん着信にしてんだよ」
「……してない、」
「は?」
「私、こんな音楽入れてないんだけど」
竹谷の言葉に、私はそう返すだけで精一杯だった。
手の中から流れ出したのは、"民謡"だと思う。思うと言うのは、少し音程がずれているような感じがするからだ。いや、今はそんなこと関係ない。どうしてそんな音楽が鳴るのかが問題だ。
「はあ?入れてないってどういう、いや、待て。それ誰からだ?」
竹谷は固まる私から音楽が鳴るそれを取り上げて、慣れたように操作していく。そうして盛大に顔をしかめた。
「シミュレーション……三郎のやつだ」
全員が竹谷へ注目した。
「先に確認してくる。揃い次第お前らも来いってさ。あと多分、これ肝試しのシミュレーションだ。本番でも似たようなことすると思うぞ」
ぱちぱちと操作したあと、手元へと帰ってくる。私もメールを確認しようとしたのだが、竹谷にあっさり衝撃的なことを言われた。
「もうメール消したから、残ってねえぞ」
「はああ!?なに人のメール勝手に消してんの?馬鹿なの?馬鹿だろお前!!」
首元を持ってがくがくと揺さぶる。頭の中が揺れるのか、竹谷はすぐに白旗を上げた。
「脆弱な!」
「おぼろろろ人間脳は鍛えられないだろ!!おろろ」
するとやり取りを見ていた久々知が、口を開いた。
「ハチ、三半規管は鍛えられるんだよ?」
「久々知もっと言ってやれ!!」
私が久々知の力強い声援を受けて騒いでいると、それに飽きたらしい尾浜が声を上げる。
「ハチの三半規管のことなんてどうでもいいから、早く校舎に入ろー」
「俺の扱い!!」

「んー、」
「勘ちゃん?」
校舎の入り口で首を捻る尾浜に、不破が声を掛ける。
「あーいやさ、これって鍵、掛かってないよな」
その言葉に全員が顔を見合わせて、尾浜の手元を覗き込んだ。
扉の構造からして、外から押すタイプのものだろう。だがどうも動かないようで、おかしなことにがたがたとも言わないらしい。
けれどどう見ても、鍵は掛かっていなかった。デッドボルト(鍵の出っ張り)はストライク(溝)に収まっているようには見えないのだ。
「……ちょっと貸してみ」
尾浜の位置に竹谷が納まり、ぐっと扉を押す。それでもうんともすんとも言わなかった。五人の中で一番力の強い不破も挑戦してみたが、同様だったようだ。
「兵助と桐野はやんないの?」
「俺はいいのだ。雷蔵に出来なかったものが出来るとは思えないし」
「非力な女子に無茶振りしないでください」
「ぶっはっ!」
「てめえ竹谷今なんで笑った!」
尾浜の疑問に答えただけなのに、むかつく反応を返してくる竹谷が憎い!
「まあまあ落ち着いて、うーん、じゃあまず、中に入る方法を探さないといけないわけか」
不破の言葉に皆頷いて、彼が悩む前に次々と意見を出していく。
「じゃあ俺は裏の方見てくる。雷蔵は兵助とどっかの窓が開いてないか調べてくれないか」
竹谷に不破と久々知が頷いて、じゃあ、と尾浜が手を上げた。
「俺は渡り廊下とか、そっちのほう探してみる。三郎のことだから妙なところ開けてる気がするんだよね」
「なら私はここで待機して」
「お前は非常階段な」
一番楽をしようと思ったのに、竹谷に阻止された。そしてそれで決定らしい。私以外の全員が頷いて、はりきって走っていってしまった。
「えー、私が階段?」
不破が丁寧にも振り返って"頑張って!"と言ってくれたが、こちらのやる気は減っていく一方。けれどここでやーめた、と帰るのも、後々面倒なことになるだろう。あの五人と対立するには、こちらも相当気合いを入れなければならない。
「……そっちの方がめんどくさいか」
小さくつぶやいて、正面玄関から離れる。非常階段ってどっちなのだろうか。自分の学校を考えれば、確か校舎の端の方にあった気がする。つくりが同じとは思わないが、大幅に違うということもないだろう。


...end

テキストゲームにするのは諦めた
20131108
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