「きり丸くん、これは?」
「こっちは違います。ほら、葉の裏」
「ならこの花はいらない?」
「それは別の袋に入れて、後で乱太郎に持たせるといいですよ」
「あっ、それ伊作先輩が喜びます!!」
みんなで薬草を取っていく。きり丸くんはバイトを取ってきた本人だし、乱太郎くんは保健委員だ。見分けるのがとてもうまい。二人ほどではないが、手伝いを慣れているしんべヱくんもなかなかだった。私はいちいち尋ねるので、結構邪魔をしているような気もする。
「あやめさん、あんまり遠くへ行っちゃだめですよ」
「うん。迷いそうだから絶対に行かない」
きり丸くんの忠告に真剣に答えれば、三人とも笑ってくれる。ほっとするなあ。このところ竹谷くんに会っていないから、余計にそう思うのかもしれない。だってあのうどん屋の出来事から、全然予定が合わないのだ。そろそろ作為的な何かを感じてしまう。
「こ、腰にくる……」
立ち上がってぐっと背伸びをした。袋の中にはそこそこ集まった薬草がある。珍しいわけではないが、こういった辺鄙なところに生えているので比較的高額で買い取ってもらえるらしいもの。
枯れないように小さく呪文を唱えて、口を縛った。
「きり丸くん、ようやく一つ終わったよー」
「あ、ありがとうございまーす。今しんべヱが、休憩兼ねて見張りしてるんで、そっち持って行ってくださーい」
「はーい」
どうやら今度はしんべヱくんより持ったらしい。きり丸くんは変わらないスピードで摘み続けている。末恐ろしいな。
布を敷いた場所へ行けば、そこには寛いだ様子のしんべヱくんと乱太郎くんがいた。どうやら乱太郎くんも袋が一杯になるタイミングが一緒だったようだ。
「二人ともお疲れ様ー」
「あやめさんもお疲れ様です」
「きり丸は?」
「向こうでまだまだ頑張ってる」
他愛のない話をしながら、布の上に寝転がった。未だ動いているきり丸くんには悪い気もするが、ちょっと休憩。
さわさわと草が風に揺られて擦れ合う音がする。人でそれを聞くのもいいが、虎の姿でも随分気持ちがいいだろうと思う。
「あ、そういえばあやめさん」
ふと、乱太郎くんが私を呼んだ。身体を起こして彼を見ると、どうやら何か聞きたいことがあるようだった。
「ん?」
「中在家先輩と、」
「おーい!!」
問いの途中できり丸くんの声が割り込んだ。その声の質に、寛いでいた三人ともが飛び起きる。
「どうしたの?」
その焦った声色に、また盗賊か何かかと身構えて、こっそり杖の確認をした。
「薬草はこれで十分だから、早く下りよう。ちょっと行ったところに、ドクタケ忍者がいた」
「え!」
「なんでこんなところに!」
しんべヱくんと乱太郎くんは分かったようで、きり丸くんの言葉に目を丸くして驚いていた。だが私には何がなんだかさっぱり分からない。いや、ドクタケっていう名前は耳にしたことがある気がする。何だったかな。興味が持てなくて覚えられなかったのだと思う。
「あやめさん、分かってない顔してますよ」
「うっ、だって興味ないんだもん」
三人とも呆れたような表情をした。
「この辺りの城の名前も知らないんですか?」
乱太郎くんの問いにどきりとする。正直良くは知らない。知っていても特にはならないから、気にしてこなかったのだ。
「ドクタケ城って戦好きの悪い城なんです」
「忍術学園と敵対してるんです」
「いーっつもぼくたちの邪魔をしてくるんです」
「分かったから、静かに静かに」
わいわいする三人をどうにか落ち着かせる。この様子だと、遭遇したくない相手であることは確かだ。私もそんな人たちとはお知り合いになりたくない。
「なら、気がつかれないうちに逃げようか。こっちのことは、まだばれていないんでしょ?」
「……多分」
少し不安そうなきり丸くんを励ますようににっこりと笑う。大丈夫。そう言うように。
そして全員が自分で摘んだ薬草を持つ。私もそれに倣って鞄の中へ放り込み、布を回収した。
「開けた場所じゃなくて、森の中を走ろう。その方が障害物が多くて見つかりにくいだろうから」
忍者の卵である三人が、小さな声で作戦会議中だ。それに和んで、そうして声を掛けようとしたのだが
「お前達、このわしが気づいてないとでも思ったかー!!!」
その声に反応してそちらを向く。その視線の先には、明らかに人ではないシルエット。
「…………よ、妖怪?」
「それマジで言ってますかあやめさん」
思わず出た言葉に、きり丸くんの冷静な突込みが入った。


...end

ドクタケーファイアー!!!
20131103
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