本日はきり丸くんのバイトのお手伝い。
「あやめさーん!」
「きり丸くーん!」
呼び合った後にがしりと抱き合うと、後ろから着いて来ていた乱太郎くんとしんべヱくんに苦笑いされてしまった。ちょっと大袈裟すぎたようだ。
二人してそれを察し、出来る限り自然に見えるように離れる。こうやってふざけてくれるのは、きり丸くんしかいないのだ。
竹谷くんには抱きつくなんて以ての外だし、不破くんには悪いし、鉢屋は論外。こちらに来てから人との触れ合いなんてほとんどないから、きり丸くんは本当に貴重な機会をくれていると思う。ありがとうございます。
「今日は私もお手伝いします。よろしくね」
「はーい!」
乱太郎くんが元気よく返事をくれて、あとはもう一人。この子は初めてだと思う。
「きり丸から話は聞いてます。ぼくはしんべヱです」
「私もきり丸くんから聞いています。あやめです。よろしくね」
しんべヱと名乗った男の子と握手を交わす。するとそれを嬉しそうに見ていたきり丸くんが、さて、と腕を組んだ。
「今日は薬草取りだ。気合い入れるぞー!」
きり丸くんの声にあわせて手を上げる。うーん、楽しい。それに今日はこの小さな三人だけなのだ。特に気を張る必要もないだろうから、物凄く楽である。彼らが怪我しないようにしっかり保護者しよう。
「今日は山の方に登りますけど、あやめさんは平気ですか?」
「大丈夫大丈夫!まかせて!」
きり丸くんの心配に、自信満々に答える。これでも多少はこちらの生活に慣れてきているのだ。運動だって元の世界の比ではないと思う。それに"動物もどき"で走り回っているわけだから、少しは成長していないと困る。
…………困る、わけでして。
「……」
「あともう少しですから!」
「休憩しますか?」
「休憩しようよー」
きり丸くんと乱太郎くんに励まされながら、私としんべヱくんは山道を登っていた。獣道を舐めてた。虎の時はほとんど何も思わなかったのに、人の姿で歩くのはかなりきつい。というか乱太郎くんもきり丸くんも、どうしてそんなに平気そうなの?後ろでひいひい言っているしんべヱくんが、唯一の拠り所だ。仲間だ。
一度立ち止まって呼吸を落ち着ける。木々の間から漏れる光が眩しい。目を閉じて深呼吸すれば、草木の香り。大丈夫だ。まだ歩ける。
「よし、行こう!」
「しんべヱ、あやめさんを見習えよ。一番最初にへばったのに、まだ頑張ってんだからな」
「……きり丸くん、心が折れた。これバッキバキだ」
しんべヱくんより先にへばったのは私です。
先を歩く乱太郎くんが、突然走り出した。そうして少し前で立ち止まって、にっこり笑いながら振り返る。
「着きましたよ!」
残った三人で、思わず顔を見合わせた。最後の力を振り絞って、乱太郎くんの後を追いかける。
追いついて前を見渡せば、そこには開けた場所があった。正直どれが薬草なのか、分からないくらいに野草が生えている。先のことは心配だが、それでもこの光景は壮観だ。太陽の光に気持ちの良い風。
疲れがどこかへ飛んでいくかと思った。その勢いで摘む薬草を尋ねようとしたのだが、しんべヱくんは揺るがない。
「着いたなら休憩にしようよー。ぼく、お腹空いちゃった」
「まあ、取り始めたらなかなか休めないだろうし、いったん休憩するか!」
きり丸くんのひとことで休憩が決まる。

さて、ここからは私の出番だ。普通に持ってきた大きめの鞄から、不自然でない程度の布を取り出した。レジャーシートがあったらよかったのだが、さすがにそんなものはこの世界にはないだろう。だから安めの布を少し大きくして、防水の魔法を掛けたのだ。我ながら良いアイデアである。
野草の少ない木陰にそれを敷いて、近くの石で四つ角を止める。そうして宿の女将さんから作ってもらったお昼代わりのおにぎりを、人数分出していく。
「あやめさんにしては荷物が多いと思ったら、こんなに持ってきてたんですか?」
きり丸くんが感心したように言うが、まあ、目立つのは大きさだけだ。重さは多少いじっているから。
「ピクニック気分で不味いかな、とは思ったんだけどね。直接の客商売じゃないから、たまにはこんなのもいいと思って。おにぎりは女将さん特製だから、味の方は安心してね」
しんべヱくんは速攻おにぎりにかじり付いた。ちょっと予想外の速度に、こちらが身を引くくらいには。きり丸くんも乱太郎くんもそれをみて一度はずっこけたものの(恐らくそんな元気があったしんべヱくんにこけたのだと思う)、礼を言ってシートの上に座ってくれた。
私は調子に乗ってお茶なんかも出し始める。気候的に熱いのは微妙だろうから、冷たい方がいいだろう。
「……あやめさんの鞄って、不思議ですね」
乱太郎くんの純粋な感想に、一度身体が止まった。
「そ、そう?」
「いろいろ出てきますし、」
三人の視線が、何となく色々なものに向けられる。大丈夫。多分ギリギリいける量なんじゃないかな?と勘違いするレベルのはず。
「そ、そんなことより早く食べて仕事しねーと!!」
すかさずきり丸くんが声を上げて、率先して食べ始めた。私はその隙に、ほんの少し気がつかれない程度に鞄を大きくすることにしておく。
やっぱり、あまり調子に乗ったことはしないでおこう。


...end

乱きりしんとアルバイト
20131002
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