くのいち教室での商売は、正直、緊張でどうにかなるかと思った。竹谷くんたちからのイメージとこの間の罠の雰囲気からして、下手なことすると吊るし上げに合いそうな感じ。
向こうもこちらが緊張しているのが分かったのだろう。少し引き気味だった。女の子と仲良くなるチャンスをみすみす逃してしまった気がする。
「もしかして、忍たまたちに先入観でも与えられてた?」
くのたまの教室からの帰り、シナ先生はそんな状態の私も見抜いていたようでヒヤッとしてしまう。
「いえ、そんな!滅相もない!ただ、あの罠の数々を作ったのが彼女たちだと思うと……」
くのいちのたまごの敷地内の罠は、確実に始末しに来ていた。あれは仕留めるつもりのレベル。
「……そう、そういえば、あの辺りを通ったのよね。確かにちょっとハードなところを勧めた覚えがあるわ」
「ははは、は、」
乾いた笑いしか出てこない。
「でも、ここではあれくらい必要だから仕掛けてあるのよ?」
「?」
「くのたまは忍たまに比べて数が少ないし、力だってはるかに劣っている。調子に乗らせて夜這いなんかに来られたら、一溜まりもないもの」
「よば……っ!」
まさかの単語に狼狽した。ちょっと待って。私よりいくつ年下……そうか。この頃の年齢の子は、既に結婚している場合もあるのか。
「だからこそ、くのたまは忍たまに恐れられていなければならない。それにこれは、彼らの授業でもあるの。将来忍者になった時、敵方のくのいちに取り込まれないようにってね」
くのいちと聞いただけで、身体が警戒するように。侮ってはならない。信用してもならない。くのいちは、息をするように嘘を紡げる。
「それは、何というか、私のところとは随分、」
違って、すごい。そう表現していいものなのか。忍者でも何でもない私が、言えることではない気もする。
「……私は何となく学校を卒業してしまったから、目標を持って前へ進んでる彼らが、ちょっと眩しいです」
ちょっと、ではない。かなり、だ。
「危険では、あるけどね」
シナ先生のそのひとことに、どれだけの感情が込められているのか。竹谷くんが陥った状況は、恐らく、珍しくはあるのだろう。けれど、ゼロではない。実習中に「生徒」が亡くなることも、必ずあるのだ。
「だからこそ、学園で出来た縁はとても強い。あやめさん」
「はい」
「友人を心配して、あなたを敵視する忍たまやくのたまも、現れないとは限らない。出来る限りそういうことは回避するつもりではあるけれど、万が一、万が一何かあったら、遠慮なく相談に来て頂戴」
シナ先生が今回私をここへ呼んだ意図が、ようやく分かった。勿論、本当に小物や簪を安く手に入れたいというのもあるだろう。だが多分本来の目的は、「私が先生の知り合いである」というのを生徒に見せることだったのではないだろうか。
"知らない怪しい変わった人"が、"学園教師の関係者でちょっと変わった人"になるなら、その差は大きい。それがきっと私を助けることもあるかもしれない。
「……ありがとうございます、シナ先生。私も出来るだけ、穏やかに関わっていきたいとは思っているんですけど」
「それを聞いて安心した。じゃあ、一年生のところへ行きましょうか。きり丸くんと、約束しているのでしょう?」
「はい、願いします」


「ここが一年は組の教室よ」
「……いやいやいやいや、部外者を教室まで連れてきちゃうのは不味いでしょうさすがに!!」
腰が引けている私を構いもせず、シナ先生が連れてきたのは一年は組の教室だった。
私、さっき穏やかに関わっていきたいって言いましたよね?これ絶対に穏やかじゃないんですけど!
「あらやだ。こういうところを攻略する場合は、一番歳の小さいものから篭絡するのがいいのよ」
「シナ先生絶対に遊んでますよね!故意にそういう危なそうな言葉選んでますよね!!」
いくら突っ込みを入れても、シナ先生は楽しそうに笑うばかりだ。微笑みではない。これは、からかった人の反応が楽しくてしようがないみたいな。
だがしかし、ここまでのこのこ付いてきてしまった私も私だ。ここは素早くきり丸くんを捕獲し、このポイントから離れれば問題ない。
「きり丸なら土井先生に呼ばれて、ちょっと席を外してますけど……どうしたんですか?」
ふわふわ髪の乱太郎くんが、シナ先生にそう言っていた。まあそうだよね。居て欲しい時にいないのが人間だよね。
「ふふ、あやめさんがきり丸くんと約束があるみたいなの。教室で待たせてあげて頂戴」
「あ、ホントだ。あやめさん、こんにちは」
「こんにちは、お久しぶりです」
シナ先生は完全に私を置いていくつもりのようだった。ちょっと恨めしげな視線を向けると、彼女は相変わらず綺麗に笑って、私の頭を撫でる。
「側に一年生が居るなら、問題ないから大丈夫。またくのいち教室にきてくださると嬉しいわ」
「今度はいっそ、お店に来てください。話は通しておきますから。……ここに来てたら私の寿命が縮まりそうです」
「あら、くのたまの子達に伝えておくわね」
「申し訳ありませんでした!!!」
「冗談よ」


...end

完全にあやめで遊んでいるシナ先生。これを見た忍たまは「あ、くのいちに遊ばれてる……」と同情の視線を向けるに違いない。※但し助けたりはしません。
20130908
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