「桐野さん!」
恒例になっている竹谷くんとの待ち合わせは、一体何度目になるだろうか。少し離れた場所で手を振ってくれる彼を見ながらそう思う。その回数が増えれば増えるほど、私はこの世界に長くいることになる。それと同時に、愛着というものも沸いてくるのだ。
現代にはない人と人との繋がり。勿論いいことだけではないが、助けられることも多い。なりより、竹谷くんのように仲の良い友人が出来てしまえば、離れがたくなるのは当たり前だ。
「お久しぶりです。変わったことはなかったですか?」
「うん、久しぶり。竹谷くんは?」
「俺はないです」
お互いの近況報告をしながら、茶屋に入る。二人分の甘味を頼んで、店の中の席に座った。
「でも結構トラブルもなくいられるもんだね」
「桐野さん、思いっきり馴染んでますから」
ここに来てから早一ヶ月と半分。竹谷くんに言われたとおり、私は随分ここに馴染んでいると思う。魔法のおかげも大きいが。
宿の一室を占領させてもらい、身につける飾りを作っては売って生計を立てている。贅沢は出来なくとも、普通の生活は出来ているのだからなかなかのものだ。それには竹谷くんの協力が必要不可欠ではあったが。
装飾品を引き取ってくれる小物屋を紹介してくれたのも、おおよその値段を調べてくれたのも彼。お店は店主が気のいいおじいさんで、私も安心して任せられた。いや、吹っ掛ける店も結構あったのでとても助かった。
「でもこのまま長くこの町にいるなら、宿は少しお金がかかりますよね」
「そうなんだよね……長屋借りても良いんだけど、私はいつ帰っちゃうか分からないからなぁ」
ぼんやりとつぶやいてみれば、竹谷くんはほんの少し眉毛を八の字にする。
これだよ。これが私が離れがたくなっている理由のひとつだ。こんな風に「帰っちゃうの?」みたいな反応されたら、胸にくるじゃないか。というか君、忍者でしょう!そんなに表情出ていいの!?
そんな感情にギリギリして、竹谷くんの頭をぐしゃぐしゃと撫でる。少し痛んだ髪があちらこちらに跳ねるが知ったことではない。
「もー、もーっ!今すぐではないだろうから大丈夫だよ!ほんとに可愛いんだから!!」
「か、可愛くはないですよ!それに長屋だって、何ヶ月かで契約すれば問題ないんじゃないですか?」
私が頭を撫でると、嫌がりはするが振り払われたりはしない。これも可愛いうちのひとつだ。
「ま、宿の女将さんに用心棒みたいなのも頼まれてるから、当分はこのままだろうけど」
「……用心棒?」
低く返された声に、私ははっと口を抑える。だが、出て行った言葉はなかったことには出来ない。
「あ、や、なんでもないかなー」
「なんでもないじゃないですよね。今、用心棒って言いましたもんね。一体どういうことですか」
竹谷くんはこの話題を見逃す気はないらしい。視線をそらしても、彼は決して動かなかった。目力半端ない。しかも心配されてるのが分かるから、蔑ろにも出来ない。
「説明してください」
「……はい、」
この通り、竹谷くんは私に対してとても過保護だ。どうやら現代の考え方はこの世界では無用心もいいとこ無用心らしく、過ごす時間が長くなるにつれて気になって仕方なくなったようである。
遅い時間に出歩いてはいけません。出来れば昼間も人気のない場所は避けてください。知らない人に付いて行ってはいけません。不思議な力があるといっても女性なんですから、危険なことには絶対に首を突っ込んじゃ駄目ですよ。エトセトラ。
「変なの来たときに、ちょっと追い返したの。別に魔法は使ってないよ。かるーくぶっ飛んだ魔法薬はお見舞いしたけど」
こんな時は力関係が竹谷くんに移る。私のほうが年上なのに、完全にお説教の体勢だ。
「騒ぎになったら、この町にいられなくなるって言ったのは桐野さんです。それ、わかってますか?」
こう窘められる度に思うが、竹谷くんはこういうの慣れているのだろうか。怒ってはいるけれど、何が駄目か分からせようとしてくれている辺りが小慣れてる。萎縮させるのではなく諭すような言い方は、今の私の耳には痛い。
「す、すみませんでした」
「……まあ、困ってたら助けるっていうのは、あんまり責められませんけど」
恐らく竹谷くんは、出会ったときのことを言っているのだろう。表情はまだ少し硬いけれど、仕方ないかという雰囲気も滲ませている。
これじゃあ、どっちが年上か分かったものではない。


...end

竹谷が完全に保護者状態。
20120427
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -