「で、改めて。訂正って何を訂正するの?」
「その、尾浜くんが恐らく勘違いしていることについて?」
結構ぼかして言ってしまった。だって本人がいる前で「八左ヱ門くんが私を好きだと思っているだろう!!」なんてこと言えない。口が裂けても言えない。言いたくない。
けれどここで否定しておかなければ、竹谷くんは誤解されたままになる。それは私としては避けておきたかった。本人だっていちいち否定するのは面倒だろう。人は勘違いしたその時点で訂正されることが大事だと思う。早めの処置は大切だ。
「なんで?」
ぼかした言い方で分かったのだろうか。これお互いに変な解釈しながら会話を進めたら、もっと大変なことになるんじゃ。いやでも今更だんまりはまずい。
ぐるぐるし始めた私に、不破くんが助け舟を出してくれた。
「あやめさんは、ハチに色々迷惑が掛かるのを回避しておきたいんですよね」
「そう!それです!勘違いとか思い込みとかその他もろもろ」
それでなくとも動物もどきで七松からの突撃を受けているのだ。生身のあやめで迷惑掛けるのは全力で回避したい。
「ああ、それなら簡単ですよ」
尾浜くんが笑った。
「関わらなければいいじゃないですか」
突然の言葉の攻撃にショックを受けるが、彼の言うことはもっともだ。
「そうすれば八左ヱ門が勘違いされることもないし、桐野さんが言っているであろう迷惑の類もなくなります」
正論過ぎて何も言い返せない。だってそれは、私も感じたことがあるから。
反論しようとしたであろう竹谷くんの手をぎゅっと握る。これは、彼に言わせては駄目だ。
「それは、確かに、あなたから見ればそうかもしれない。でも言えないのにも理由がある。それを知らずに関わるなっていうのは、ちょっとないかな」
迷惑は掛けっぱなし。でも竹谷くんは恩人で、孫兵くんときり丸くんだって友人だ。動物もどきを知ってなお、こうやって話せる不破くんや、不本意だが鉢屋も貴重な人だ。大切だし、大事にしたい。そう思える。
でも尾浜くんの言うことも分かるのだ。私だって、竹谷くんたちが私の知らない怪しい人と親しくしていたら、きっと心配する。油断が人の命を左右することがあるこの時代なら、尚更だろう。
「……なら、その理由を提示してもらわなきゃ」
黙っていた久々知くんが口を開いた。
「理由っていわれても、知らないんじゃ判断のしようがない。勘右ヱ門の言っていることはおかしくないと思うけど」
これも正論。だが、言えない。もう既に学園長というところまで話が通っているのだ。こちらの判断で下手に生徒にばらして、何かあったらどうすればいい?
自然と視線が下がっていく。ふと、竹谷くんと繋いだままの手が視界に入った。
「それは多分、今のあやめさんには言えない」
今度の助け舟は、竹谷くんだった。
「八左ヱ門、訂正したいって言ったのは桐野さんだよ。本人が言うってのが筋だろ」
「でも言えないよ。だってあやめさんも、勘右衛門と兵助を知らないからな」
そんなの当たり前だろ?そんなトーンで話す竹谷くんに、(私含む)他五名はぽかんとした。
「勘右衛門だってあやめさんを知らないから警戒してる。ならあやめさんが逆に勘右衛門を警戒するのも道理だ」
「いや、まあそうかもしれないけどさあ」
「それに俺はあやめさんに会っていなかったら、恐らく、今こうやって話せていない」
尾浜くんと久々知くんが息を呑むのが、私にも分かった。
「俺にとっては大事な恩人だよ。警戒するのも分かるし当然かもしれないけど、それはお前らだけの話だ」
あ、不味い。ちょっと泣きそう。
「誰が疑っていても、敵でも、あやめさんが元の場所へ帰るまで、俺はこの人の味方でありたい。それはもう、俺の中で決めたことだ」
「桐野さんが学園の敵へ回ったら、傷つくのは八左ヱ門、お前だよ?」
「あやめさんは敵にはならない。でもそうだな、もし万が一そうなっても」
言葉が途切れた。けれど竹谷くんは何か言ったようだ。他の人たちの顔つきが変わる。
「……出来るの?」
「実力的にはちょっと難しいかもな」
「えっ」
「え、」
尾浜くんと久々知くんが、ぎょっとして私を凝視した。不破くんと鉢屋は小さく頷いている。何が難しいの?
「え、何?どうしてこっちを見るの?」
「ああ、あやめさんを止めるって話です。色んな意味で難しいでしょう。どう考えても」
魔法のことを言っているんだろうか。別に学園の敵になるつもりはないが、彼らはこういう状況も考えておかないといけないのかもしれない。
「そうかな」
「そうですよ」
はっきり言い切る竹谷くんへの反応が困る。すると目の前に座っていた尾浜くんが大袈裟にため息をついた。
「分かった。そこまで考えているなら俺は何にも言わない。でも桐野さん、ハチはこんな風に色々背負い込む」
「はい」
「だからもし八左ヱ門を傷つけたら、俺達はあんたを絶対に許さない。絶対に、だ」
真剣なその声は、警告をされているのに少し安心する。優しい竹谷くんには、こんな風に彼を守ろうとする仲のいい友だちがいるのだ。
「……私は今、ちょっと特殊な状況でね。頼れるのって八左ヱ門くんしかいないって思ってる」
私のこの力を知っている人たちは確かに増えた。理解だってしてくれようとしている。そんな人たちを私は大切にしたいと思っているし、多分出来るだろう。でも頼れるかと聞かれれば、それには頷くことは出来ない。
孫兵くんもきり丸くんも私にとっては年下であり子どもで、頼れるような存在ではない。かといって学園の先生へ助けてと言えるかと考えても、それは無理があるだろう。竹谷くんの言ったとおり、私は彼らを知らなすぎる。
鉢屋や不破くんも同様だ。竹谷くんの友人だからこそ、こうやって話してはいるが、これも竹谷くんという存在がなければどうなっていたか分からない。
「これからも、どうしようもなくなった時は、ハチくんの所へ行くと思う。この世界で私を一番知っているのは彼だから」
世界のことも、魔法も。そして私も竹谷くん自身のことを教えてもらっているから。
――それに、味方でいてくれると言ってくれた。
「……だから、八左ヱ門くんのことは絶対に守るよ。どんな手を使ってでも」
魔法がばれるばれないじゃない。この居場所は、私にとって「この世界」での唯一だ。学園へこの魔法を見せた時に、恐らく覚悟は決まっていたと思う。こうやって言葉にするのは初めてだけど。
「それに私は、あの学園に関してのことも守り切る。そこがあなた達にとって帰る場所なら、守るべき場所なら必ず」
もう逃げたりは出来ない。逃げて何もなかったように振舞うなんて不可能。なら私は、どんな風になってもここに留まるべきなのだ。
大丈夫。私は魔女だ。マグルに出来ない様々なことを、自身の力で可能に出来る。
「……桐野さんは、その、強いんですか?」
久々知くんの問いに頷いてみせた。でも、と付け足すのも忘れない。
「身体能力は相当ひどいから、試してみようとは思わないでね」


...end

「もし万が一そうなっても、俺はあやめさんの側にいる。そして、一番近くでこの人を殺すよ」
20130824
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