不破雷蔵が急いでくのたま敷地内から戻れば、そこにはむっつりとした表情で一年生に指示を出している鉢屋三郎がいた。
「三郎、」
不破がさり気なく隣へ落ち着けば、鉢屋は矢羽根を飛ばす。
(もう脱出したのか?)
(うん、布に乗って飛んでった)
(……私は断じて突っ込まないぞ)
なんとも不思議な会話を強制的に終わらせ、素知らぬ顔で「学園長先生の思いつき」に参加する。
(兵助と勘右ヱ門が八左ヱ門の変装してうろうろしていたから、多少目くらましくらいにはなっただろ)
尾浜と久々知の様子を思い出して、鉢屋は肩を竦めた。事情を説明しなくとも協力してもらえるのはありがたいだろうが、アレは確実に多大な見返りを求める目だった。むしろ貪るつもりにも思えた。
(こりゃあハチの財布が平たくなるな)
鉢屋はそれを想像して悪い笑みを浮かべる。そんな鉢屋の考えが読めたのだろう。不破は小さくため息をつくと、こっそりと竹谷の財布の無事を祈った。祈るだけだ。助けたりはしない。
「それで、先輩方はどうしてるの?」
不破がそう尋ねれば、鉢屋はさらりと返す。
「シロを探してた。七松先輩は気合入れていたが、中在家先輩は学園長先生の意図が分かったんだろう。私の方を恨めしげに見ておられた」
「……中在家先輩が?」
「ああ、中在家先輩が」
不破は少しだけ考えて、想像するのをやめた。
「雷蔵、諦めるなよ」
「だって中在家先輩が虎を飼う飼わないでそんな、想像できないや」
「ま、それだけシロを気に入ったんだろう。正直あの姿かたちは、この私でも美しいと感じたからな」
鉢屋はそれだけ言うと、ぽかんと彼を見る視線に気が付く。
「……雷蔵?」
「いや、まさか三郎がそんな風に思ってたなんて思ってもみなくて。……本人に言ってあげれば良かったのに。ああやってからかってないで」
「はっ!言ったら言ったで調子に乗りそうだ。気持ち悪いんですけど、みたいな目で見られたら手が出る」
そう言いつつも、特に嫌悪感は見られない。不破は(分かったら拗ねる為に)心の中でこっそり笑って、鉢屋の肩を叩く。
「怒らせて引っ掻かれないようにしなよ?」
「もう会うこともない」
「はいはい」
「会うつもりもない」
「はいはい」
「雷蔵!!」
「はいはい。ほら、兵助が呼んでる。行かなくちゃ」
怒る鉢屋を軽くあしらう不破に、久々知が不思議そうに近寄っていく。

忍術学園は、今日も平和です。

...end

息抜き。
20130815
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