くのたまの敷地内って、こんなに恐ろしいものだったのか。というか罠の数と質が、忍たまたちのところと比べ物にならないんですけど。
先を走る不破くんの後を付いているはずなのに、どうしてもいくつかの罠を発動させてしまっていた。しかも背に乗る竹谷くんが、そのいくつかを上手い具合に防いでもくれているようだ。鉢屋が竹谷くんに乗っていけと言っていたのは、竹谷くんが思ったよりすぐにその提案に乗ってくれたのは、このせいだったのかもしれない。
「うーん、それにしても貴重な体験だなあ」
不破くんが立ち止まって辺りを見渡す。そうしてこちらを振り返って、小さく笑った。
「くのたまがいない敷地内に入っていくとか」
「まあ、いたらいたで怖いけどな。その辺りは山本シナ先生がどうにかしてくれているんだろ」
「見つかったら、正規の許可証持ってても八つ裂きにされそうだものね」
乾いた感じで笑う二人に、私の中での「くのたま」のイメージが固まっていく。やばい。恐ろしいビジュアルしか出てこない。
「で、話によると、この辺りから塀を飛び越えて……」
全員が塀の上を見た。うん、ちょっと高い。
「これをシロさんに飛び越えろって、なかなか無茶を言うなあ」
しかも助走なしじゃないだろうか。私には無理じゃないか。そう落ち込んでいると、竹谷くんが私の背中から静かに下りた。
「雷蔵、人の気配は?」
「……ない」
「上もそうみたいだ」
竹谷くんの視線の先、空には、大きな鳥が旋回していた。種類は分からないが、タカとかそっち系?
「あんまり飛ばしてると絶対に立花先輩辺りにばれるから、そう見張らせてはおけない。でも少しなら平気です」
とんとんと背中を叩かれた。
「人間に戻ってください。それなら抱えて出ることができる」
言われた瞬間は理解できなくて、きょとんと竹谷くんを見上げた。そうしてもう一度同じことを言われて、ぎょっとする。
「あまり時間は掛けられません。早く」
だがここで私が渋るせいで、彼らの計画が破綻したらその方が大変だ。一呼吸おいて、身体を人間のものへと戻す。ぐぐっと腕を伸ばして、おかしなところがないかを確かめた。
「ちょっと待って」
私を抱えようとした竹谷くんを押しとどめて、この辺り一体に人避け呪文を掛けていく。これでもう、この学校の関係者に見つかることはない。
「……そっか、そうですね。あやめさんにはその手があったのか」
竹谷くんは感心したように頷いているが、話の分からない不破くんは首を傾げるばかり。
「早くしないと見つかります」
「雷蔵、もう平気だ。見つかる心配はないよ。あやめさん、ここからは俺一人でも大丈夫ですか?」
「私一人でも大丈」
「駄目です」
「八左ヱ門、あやめさん、あの、言っていることが」
提案を素早く拒否されて思わず肩を落とす。でもそれならば、さっさと外に出てしまおう。トランクをぽいっと放り出して素早くあける。隣りで不破くんが、突然大きくなったトランクを凝視していた。
中から普通に探すのが面倒だから、呼び寄せ呪文でも使ってしまおう。
「空飛ぶ絨毯!」
今更だが、この名前をつけたのは間違いだった気がする。だって人前で「空飛ぶ絨毯!」とか、事情を知らない人が聞いたら痛すぎやしないだろうか。これはもう本当に、マグル生まれの魔法使いにしか利かないジョークのような気がする。
トランクがガタガタ揺れて(予算の関係で名前は絨毯だが)マットの端が出てきた。そこで静かになった布に、私はため息をついてそれを引っ張り出す。
「あ、それもしかして」
「箒は一人乗りだからね。こっちの方が安定してるし……よいしょっと」
そこそこの大きさのマットを広げた。それは地面に落ちることはなく、ふわりと宙を浮いている。
不破くんはやっぱりそれも凝視した。
「え、それどうなって、え?……え??」
何の躊躇いもなく竹谷くんは「空飛ぶ絨毯」へ飛び乗った。私はバランスを崩さないように足を掛けて、落ちないように座り込む。
「じゃあ雷蔵、後は頼む。俺もすぐ戻れると思うから、上手く誤魔化しておいてくれな」
「……僕はようやく、突っ込んじゃいけないってことに気が付いたよ。あやめさん、これについて、後で八左ヱ門に聞いてもいいですか?」
「うん。でも八左ヱ門くんも、そんなに詳しく知らないと思う」
「ありがとうございます。では、また次の機会に」
不破くんが深く一礼した。私も慌てて頭を下げる。
「こちらこそ、私のこと黙ってくれてありがとう。凄く助かりました!」
それを聞いた不破くんはきょとんとして、それからにっこり笑った。
「僕たちも助かりました。今度は背に乗せてくださいね」
「空飛ぶ絨毯」が高度を上げていく。竹谷くんと並んで下を覗き込んで、不破くんへ手を振った。振り返してくれたのを確認して、マットごと透明にする。竹谷くんが背中に張り付いたのが分かった。まあ、下に何も見えないのは怖いよね。
人避け呪文を終わりにして、後ろにいるであろう竹谷くんに尋ねる。
「このまま離れて大丈夫?」
「……そうですね。とりあえず町のほうまで行けば安心ですよ」
人には絶対に届かないであろう高さまで上がり、忍者学校の様子を見る。誰が誰と言うのはさっぱり分からないが、沢山の人が忙しく動いているのは見えた。
「あ、兵助」
「え、ここから見えるの?」
「一応見えますよ。えっと、あの一番大きな建物の側で固まっている集団の……」
竹谷くんの声が近い。背中に体温も感じられる。それに安心して、私は改めて彼の話に耳を傾けた。


...end

共犯者編終わり。秘密の共有
20130813
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