「お前起きてたのか!」
べしっと鉢屋に叩かれた。それに対してどうやって反撃してやろうと考えた瞬間、まだ身体を預けられていることに気がつく。竹谷くんのほうは既に離れている。問答無用でさっと立ち上がれば、上手くどこかをぶつけたようだった。
「いって」
鉢屋が声を上げたのを確認して、ぐっと身体を伸ばした。そうして竹谷くんに向き直る。
しかしまさかこの姿のままこんなところで寝てしまうとは思いもしなかった。緊張してそれどころじゃないはずだったんだが、どうやら本当に疲れていたらしい。
「そろそろここを移動しましょうって話していたんです。生徒が来たら大騒ぎになるでしょう?」
「もう半分騒ぎにはなってると思うけど」
善法寺くんは七松がどれほど張り切っていたのか見ていたからか、もう先のことが予想できているらしい。
「でも本物を目の前にしていないから、みんな半信半疑だと思うんだよね」
そこで竹谷くんと不破くんが大きく頷いた。
「まあ普通信じられませんよね」
「僕も未だにちょっと……」
不破くんの疑いは私の正体に対してだと思われる。
信じられなかろうと信じられようと、とにかく私は今ここに居るのだ。あまり騒がれたくはないのが希望ではある。でも結局、あやめと虎が結びつかなければそれでいい。
(それならどこ行くの?)
人間の姿では絶対に使うことは出来ないであろう、首をちょっと傾げる技を使ってみた。動物がこの仕草をすると恐ろしい攻撃技になる。少なくとも私はそうだ。相手の警戒心が大きく下がった!みたいな。
「長屋、俺の部屋に行きましょうか。罠ありますけど、気をつけていけば引っかかりませんし、……そこで足も洗います?」
見られて思い出す。そうだ、足汚れているんだった。多少は鉢屋が渡してくれた布で落としたものの、綺麗になったかと問われれば微妙である。全然気にならなかった。この辺りは気にならなくなってしまうんだろうか。
急いで地面へ降りて、くるくると回ってみせる。一応、行こう!と催促しているつもり。
「行きましょう。で、三郎と雷蔵は風呂入ってこいよ。汚れも酷いし、今日一日そのままでいるわけじゃないだろう?」
「え、でも一人じゃ大変じゃない?これから見に来る人も増えるかもしれないし、それに八左ヱ門だってひどいじゃないか」
「さすがにシロとは一緒に入れないから、誰かが見ていないと」
私も男の子の風呂を覗く趣味はない。しかし迷惑掛けてるなあ。竹谷くんなんかひどい怪我していたんだから、早めに綺麗にした方がいいのでは。
「竹谷は風呂はやめておくんだよ。また出血しても知らないからね」
善法寺くんがにっこり忠告してくれた。
「できれば、鉢屋も」
保健委員長の言葉には、誰も逆らえない気がした。いや、本当に。



「そっちに罠ありますから、気をつけてください」
以前伊賀崎くんに手を引かれて歩いた時も思ったことだが、この学校、罠多すぎじゃないだろうか。魔法学校も仕掛けやらいろんなものがあったが、ここまでではなかった気がする。動いて伸びる階段や増える扉に部屋、それに逆さまになる通路。改めて考えると、その方がおかしいか。
ぴょんと落とし穴らしい地面の上を飛び越えて、慎重に竹谷くんへ付いていく。ここまではそう問題はなかったが、油断は出来ない。だって善法寺くんは良く引っかかるといっていた。なら私なんて一発で仕留められてしまう。
「先に教えておきますね。俺は雷蔵と三郎のほかに、もう二人仲良い友人がいるんです」
ある部分を迂回した。うーん、罠があるとか全然分からない。
「シロのことは二人には言ってないので、驚かれるとは思いますけど仲良くしてやってください」
優しく微笑まれてしまったら、こちらは頷くことしか出来ない。これ多分、言葉を話せても同じ結果だった気がする。
竹谷くんとしばらく歩くと、長屋が視界に入る。見たところ人はいないようだ。話し声もしない。静か。きょろきょろと周りを見ていると、竹谷くんが長屋の一角を示す。
「あれが俺の部屋です。委員会の道具で手狭ですが、同室はいないので比較的楽だと思います……あ、でもちょっと待っててください」
自分の部屋を示してから、竹谷くんははっとしたような表情をした。慌てて私を部屋の前まで連れて行くと、動かないように言い含められる。そうしてさっと部屋の中へ入っていってしまった。
ちらりと見えた部屋の中は、まあ何と言うか、男の子らしいというか。少なくとも、片付いてはいなかった。確かにそれははっとするね。私も人を呼ぶ時には片付けなければならないタイプだから、よく理解できる。
部屋の中から物音が絶え間なく続いて、それから唐突に静かになった。
いい笑顔で出てきた竹谷くんは、どうやら無事に部屋の掃除を済ませたようでした。まる。


...end

一晩お泊りフラグ?
20130807
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