「あなた本当に、どこから来たんですか……」
「いやー、随分遠くから。この星の裏側よりも遠いレベルです」
「???」
竹谷くんがそう呆れたように言うのも仕方のないことだったと思う。着物に驚き、町の仕様に建物に感心し。正直こいつやばいんじゃ、と思われても反論はできない。
だが現代っ子の私としては、この時代は見慣れないものばかりだ。多分。時々変なもの視界に入るけど。
「でもこの町まででいいの?血が止まったとはいえ怪我酷いでしょう。近くまで送ってくけど」
なんと竹谷くんは、ここから自力で帰るつもりらしい。怪我しているのに。血は止まっているとはいえ、怪我しているのに。大切なことなので二度言いました。
そもそもあの癒しの呪文だってなんちゃって効果だ。治ったわけではないから、動けば傷は開く。はい、それは私が未熟なせいです。
「いえ、ここまでで十分です。それより桐野さん」
「ん?」
「当分はここにいらっしゃるんですよね?」
「うん、問題ない限りは」
道から外れた場所から、少し大きめな町を見る。すでにマットはしまって、トランクも背負っていた。
竹谷くんはそんな私を見て、再び頭を下げた。怪我のせいで立っているのも大変だろうに、そうやって身体を捻る真似はやめて欲しい。こっちが痛くなる。
「ちょっと、傷に触るよ」
「ありがとうございました。お礼は改めて伺います」
「え、いいって。私も色々教えてもらったし。そんなこと考えるなら怪我の心配しなよ。帰ってる途中、絶対傷が開くから」
動けば悪化するのは当然だ。だがそれでも、彼は一人で行くと言う。忍者の隠れ里だとすればその頑なな反応も当然のことかもしれないけど。
「じゃあ、そんな忍者な竹谷くんにこれをあげよう」
ローブから取り出したのは、親指ほどの小瓶だ。中には濃い緑色の液体が入っている。
「こっちも応急処置用なんだけど」
「これは?」
「一時的に傷を治す薬。効果が効いている間は問題なく動けるようになる。でも治るわけじゃないから、一定時間経つと元に戻っちゃうけどね」
私はこの時密かに決意する。これからトランクの中には、怪我用の薬一式を入れておこう。誰か薬学と癒しの呪文が得意な子に頼めば、一通りは揃うに違いない。元の場所に戻れたらになるが。
「途中でどうしても動けなくなったら使ってよ。本当なら使わないほうがいいんだけどね」
傷だらけの身体を使えるようにするまやかしの薬。酷使という表現がぴったりだから、余り勧めたくはない。でも帰る途中で力尽きるよりはいい。結局はどちらがマシか、という話だ。
竹谷くんはその小瓶を少しの間見つめた後、そっと手を出してきた。やっぱり身体の具合は良くないのだ。
「お言葉に甘えさせてもらいます」
「ん、じゃあ、無茶はしないように」
「はい」
竹谷くんはもう一度軽く頭を下げると、後ろへ飛んだ。少し離れた場所でこちらに背を向けると、ゆっくりだが走り出す。無茶しないようにって言ったのに走りやがったぞあいつ。絶対傷口開いたな。
私はその場所から動かずに、あっという間に小さくなった竹谷くんの背を見つめる。恐らくもう会うことはないのではないかと思う。相手は本物の忍者なようだし、こんな怪しい人間にもう一度会おうとは考えないだろう。それにあんな酷い怪我だ。完治するまではろくに動けなくなる。その頃には私のほうも、もしかしたら迎えが来ているかもしれない。来ていてくれ。切実にお願いします。
「さーて、私はこれからが問題かな」
竹谷くんを質問攻めしたとはいえ、これから知らないことも違うこともたくさん出てくるだろう。だが私は、迎えがくるか帰る方法が分かるまで、何が何でも無事に生き延びなくてはなるまい。
「よし、行きますか!」



...end

魔法があればなんとかなりそう。
20120422
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