「マスター!トリックオアトリート!!」
「マスター!トリックオアトリート!!」
揃って両手を出してそう言い放つのは、ホグワーツの二代目悪戯仕掛け人であろう双子だった。彼らは様々な人たちに言って回っているようで、その目は輝いている。大方、お菓子をくれなかった人には盛大な悪戯でもしてきているのだろう。
「私で何人目?」
「あー、確か……二十人くらい?」
「数えてないけど、確実にそれくらいは超えているかな」
双子は私の問いに素直に答えると、さっさと手を引っ込めた。その表情を見ると、どこかつまらなそうだ。
「それを聞くって事は、マスターは用意してるってことだよな?」
「折角マスター用の悪戯を考えてたのに台無しだ!日本でもこういう行事するの?」
「日本人は楽しい行事は何でも取り入れるからね」
和だろうが洋だろうが関係ない。でもそれはそれで楽しいから、私は大歓迎だ。言いながら、一応彼らに小さな飴を渡しておく。
実はこれは、ロンが忠告してくれたのだ。双子がコソコソなにかしているから、ハロウィンは気をつけたほうがいい。ポケットかどこかに小さなお菓子を忍ばせておくほうが得策かもしれない、と。
見事その予想は当たったわけだ。後でロンにお礼を言っておこう。今回のロンの忠告には感謝しているものが沢山いるだろうけど。
「でも私用の悪戯ってなに?」
先ほどの会話に気になる話が一点。悪戯されないからこそ聞いてみたいこともある。しかも私にという限定だ。気にならないほうがおかしい。
「マスターは我々の努力を聞いてくださるらしい!!」
「おお、よくぞ聞いてくれました!」
ジョージとフレッドの盛り上がりように、尋ねたことを一瞬後悔する。だが一度口にしてしまったことは決して戻せないので、釘だけ刺しておこう。
「お菓子は渡したんだから、悪戯は受けないよ」
するとフレッドが神妙な表情を作って口を開いた。
「それは大丈夫さ。我々はルールを重んじる」
それに習って、ジョージが誓いでも立てるように自分の胸に手を置いた。絵にはなるかもしれないが、すごく嘘くさい。
「二人とも、規則は破るためにあるとか言いそうなのに」
「ま、規則はね」
「でもこういう遊びのルールは守らないと楽しくないだろ」
双子はそう肩を竦めると、どこからともなく小さな瓶を取り出した。彼らのその動作からして、どうやらそれが私に対して予定していた悪戯らしい。
「薬?」
「その通り。一定時間身体を小さくする作用がある」
「ちょっといじって時間は短めに設定してあるんだ。マスターの為にね」
どうやら縮み薬の類らしい。いわゆる幼児化というやつだろうか。
「思ったより常識から外れていないことにびっくりした」
魔法の世界ではこんなこと日常茶飯事だと考えていたから、今更悪戯として出されると、なんかこう、イベントごとだなぁと感傷に浸れる気がする。
だがこの発言は、双子に多大な衝撃を与えたようだった。
「え」
「え」
同じ顔で、同じように私を見る彼らは、まるで鏡のようだった。
「それは本気で言っているのかい、マスター」
「ならこれからこれをマスターにかけても許してくれるって解釈しても構わない?」
調子に乗った双子は、止まることを知らない。ビンを持ったフレッドは、それはそれは楽しそうにフタを開けている。おい誰もやっていいなんて言ってないぞ。
しかしこのまま黙っていては、確実にこの縮み薬の餌食にされる。なら、
「はいじゃあフレッド、ジョージ」
にっこり笑って両手を出す。
「トリックオアトリート。尚、人からもらったお菓子は受け取れません」この用意のいい双子のことだ。こう言われたときの為にお菓子を準備しているだろう。
だが、彼らはここに来るまでに相当の人数からお菓子を貰っているはずだ。――自分のお菓子が、どれだか分からなくなるくらいには。
別の袋に分けていたなら問題はないが、その場合はお菓子を受け取った瞬間に逃げればいい。しかしもし、彼らが判別できないようなら。
「……どう?」
「そりゃないよマスター!」
「一緒くたにしてるに決まってるだろ!?」
悪戯決行である。
フタの開いたビンを持っているフレッドの腕を掴み、そのまま自身へと掛けさせる。そのまま残りもジョージに引っ掛け、悪戯完了。
「ちょ、」
「うわ、マジか!?」
まさかそう来るとは思っていなかったのだろう。双子は悲鳴を上げた。
双子の姿は気になるが、これ以上の騒ぎに巻き込まれたくはない。もう既に、十歩ほど離れたところから傍観の体勢に入っていたりする。
少しの時間の後そこにいたのは、勿論小さくなった双子だった。頭の中までは小さくならないらしく、饒舌ではあったが随分可愛い。
「ひどいぜマスター!これはマスターにつかってほしかったのに!!」
「まったくだ。じぶんのちいさいころをみてなにがたのしいんだよ!!」
「はいはい、私は可愛いフレッドとジョージが見られて満足です」
end...
談話室では、小さな双子を侍らせた魔女が見られたらしい。
20111030