「オイ魔女、トリックオアトリート」
「なんですかその手は」
見回りの最中らしい男──沖田総悟は、手を出しながらそう言い放った。しかも何か貰う気満々なのか、しっかり両手を差し出している。片手でないのに注目してください。
「お菓子か悪戯かどっちか選べって言ってんでさァ」
これは脅迫にならないだろうか。お巡りさんこの人逮捕してください。あ、この人が警察だった。
「……はいどうぞ」
自分で食べようと思っていた、レモンの飴を手渡す。一つではあるが、立派なお菓子だ。
「何でィ、しけてんなぁ」
「普通沢山のお菓子なんて常備してないから」
いくらハロウィンだって、会った人に無差別にお菓子を請求していいわけじゃない。しかも多分沖田くんの場合渡さなかったら、悪戯と称してバズーカか何かが向けられそうな気がする。
……飴持ってて本当に良かった。
沖田くんはその飴の包みを開けて、ぽいっと口の中に放り込む。ここで食べていくのか。そして何故、私にゴミを押し付ける。
「ちょっと、ゴミくらい自分で捨てなさいって」
そうは言っても、彼が言うことを聞いてくれるとは思わない。後で捨てようと仕方なく鞄のポケット部分にしまう。忘れないようにしよう。
そこでふと、面白いことを思いつく。今日は沖田くんが言うとおりハロウィンだ。ならその権利は、私にもあるのではないだろうか。
「……沖田くん」
「?」
「トリックオアトリート」
にっこり笑って、片手を差し出してやった。見たところお菓子は持っていないだろうし、持っていたら持っていたでそれが頂けるだけだ。なかったらこちらに悪戯の権利が発生するので、決して私には被害はない。勿論後が怖いので悪戯なんてするわけがないが。
「お菓子なんて持ってねぇや」
ポケットやら身体中を叩いて確認してくれる。予想外に真面目に受けてくれたらしかった。沖田くんも可愛いところがあるようだ。生意気だけど。すごく生意気だけど。
「じゃあ、悪戯?」
少し調子に乗って言ってみる。機嫌は悪くないようだし、これくらいなら許されるだろう。
だが沖田くんはあっさりと首を振った。
「いや、悪戯はヤなんで」
「っ」
素早い動きだった。がっとあごを掴まれて、気がつけば視界には一面沖田くんの顔。
何が起こったのかを理解したのは、その綺麗な顔が離れてからだった。口の中にはいつの間にか彼に上げたはずの飴が入っている。
これは、まさか。
「まぬけ面。……菓子一択でィ」
ぺろりと舌を出した沖田くんは、随分と楽しそうだ。たのしそうだ。
「な、う、え、今……!!」
「言えてねェ」
あごから手が離れて、今度は額を突かれる。でもこちらはそれどころではない。というか、何を言うべきかもどういう行動をとるべきかも分からない。
「俺に悪戯しようなんざ、百年早いんでィ」
にやりと笑った沖田くんに、私はひとこと。
「わ、私の方が年上なのに!!」
「……そこかよ」



end...

獅子はつついてはならぬ。
20111030
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