「とりっくおあとりーと!!」
友人である真田幸村は、大変期待のこもった目で私を見つめていた。英語の授業で人並みに習っているのにも関わらず、随分可愛らしい言い方だったと思う。
それは確かに今日の行事だ。「お菓子か悪戯か」とお化けの格好をした子どもが、近所の家を回る……のは外国の仕様かな。知らない家なんかに突撃したら普通怒られそうなものだし。それとも親か誰かが事前に連絡でも入れているのだろうか。いや待て、話がそれた。
「魔女殿、とりっくおあとりーとにござる」
大切なことなので二度言いました、か。
幸村は私が反応しないのは聞こえていなかったのだと考えたらしいが、それは大きな間違いだ。高校生男児が言うにしては随分幼い言葉が、予想外にその幸村の形にマッチしているという事実に衝撃が大きかったというかなんというか……。
「それ、誰に教わったの?」
「いや、去年佐助や政宗殿に教わってな。これを言うと皆菓子をくれるので、今年は自主的にやってみようかと」
素直に話してくれるのは良いが、この分だとハロウィンという行事自体は知らないような気がする。お菓子を貰える日、とか勘違いしてそうだ。
「でも私、今日お菓子なんて持ってないよ?」
「なんと!!」
幸村は今日は誰もがポケットにお菓子を用意しているとでも思っていたのだろうか。見ているこちらは可愛いが、そのうち騙されそうで怖い。そうなる前に、佐助が助けたうえで相手を叩き潰しそうではあるけれど。
「む、むむ、持っていない可能性というのもあるのだな……」
ようやく達したらしい考えに、私は小さく息をつく。この分だと他の人にはまだ聞いていないのだろうか。
そこで私は、ちょっとした悪戯心が働いてしまった。
「……ね、幸村」
「なんでござろう。何か見つけられたか!」
幸村はお菓子しか頭にないらしい。ないらしいが、良く考えろ。その「トリックオアトリート」には、悪戯という言葉もあるんだぞ。
「私は幸村にお菓子あげられない」
笑い出したい気持ちを抑えて、すまなそうに幸村を見る。すると彼は慌てて両手を振った。
「な、そのような顔をするな魔女!俺が突然こんなことを聞いたのも悪い」
「だからね、」
一度そこで止める。顔全体の筋肉をフルで制御して、ニヤニヤしないように演技。
「悪戯、していいよ?」
時間が止まったような気がした。というより、幸村の時間だけが止まったようだ。
幸村は私の前で、両手を振った体勢のまま完全に固まってしまっている。本当にどうした。
「幸村、冗談だから――」
さすがにこの純情ボーイをこんな風にからかうのはまずかったか。人に悪戯なんて、この真面目な彼のことだ。出来ないに決まっている。
「は、」
「は?」
動き出したと思ったら、予想外の言葉が出てきた。
「破廉恥ーー!!!」
真っ赤になった幸村はそう叫ぶと、教室のドアをぶち破って走り去ってしまう。本当にどうした。
「っていうか何考えて破廉恥って……」
無残な姿になったドアは見なかったことにしよう。そう決心しながら、帰ってきた幸村にどういうフォローをしてやろうかと頭を捻った。


佐助に「悪戯」と言われたら、携帯の着信音を全てお館さまあああああに変える幸村。
政宗に「悪戯」と言われたら、机の中に不思議なものを投下する幸村。
魔女に「悪戯」と言われたら、破廉恥なことしか思い浮かべなかった幸村。
さて、これから導き出されるのは?



end...

自覚前の天覇絶槍。
20111030
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