私は三橋の隣りの席に座っている。
これは出席番号だとかそんなものではなく、席替えのクジで同じ番号を引いたからだ。

素晴らしい偶然。
……いや、そうでもないのかな?
クラスには結構な人数がいるけれど、その中の一人は確実に同じ番号を引くことになるから。

というか、別に机をくっつけたりする訳でもないのだから、番号をペアにさせなくてもいいような気がする。
誰か突っ込めよ。
今更だけれども。


それでも私は三橋と同じ番号を引いたことが嬉しいし、何よりその紙を私は捨てずにこっそり取っておいてある。
それを考えると、私的には良かったのだろう。



への進化、数秒前



「三橋、英語の予習やって来た?」

私は英語の直前の休み時間、三橋にこう聞くことにしていた。
彼は野球部で、遅くまで練習をしている。
その為か、予習まで手が回らないことが多いらしい。
宿題で一杯一杯だと言っていた(これは田島と泉も文句を付けていた)。

「あ、う、うん」

「あ、そっか、今回宿題少なかったから?」

こく、と小さく頷く三橋に、少しがっかりしながらも相槌を打つ。


こうやって訊き始めたのは、席替えをした初日からだ。
席替えの直後にあった英語で、彼は訳を当てられてしまっていた。

普段の英語教師は、英語訳を席順に生徒にやらせる。
皆に均等に当たるように、前回の続きから順番に。
だから例え予習が出来なくとも、その当たる部分を予測してそこだけ予習しておけばいい。
しかし席替えをしてしまえば、それはリセットされたも同然。
しかもこういう時に限って、先生の気紛れで生徒は選ばれてしまう。

そしてその時の生け贄は、三橋だったというわけだ。

今思い出しても頬が緩む。
三橋には言えないが、あの慌て具合はとても可愛らしかった。
なんかこう、ぐりぐりしたくなる感じ。

慌て過ぎて教科書を落として泣きそうになった三橋に、私は教科書を拾うついでに自分のノートも渡した。
彼が読むべき部分を、しっかりと赤で示して。

それからである。
三橋が少しだけ、頼ってくれるようになったのは。

そして私が、席替えの番号の紙を捨てられなくなったのも。

「で、でも」

「ん?」

「と、途中まで、で、オレが、当たるのは、ちがくて」

「分かった。三橋はどこまでやって、今日はどこ当たるの?」

三橋の言わんとすることを予想し、先回り。
すると彼は驚いたようにぱちぱちと瞬きして、それから慌てて私の質問に答えてくれる。

きっと最後まで言わなくても、私が理解してしまうのが不思議なのだろう。
けれどそれは当たり前だ。
私が、出来る限り三橋を分かろうと、知ろうとしているのだから。

「お、おお、出来、た!」

「よし、完了」

毎回始業ぎりぎりに完了する三橋の予習。
嬉しそうにノートを掲げる彼の姿は、もう見慣れた。
可愛いことには変わりないが。

「田中さん、あ、ありがと」

ノートを持ったままにこりとする三橋に、私は机の下でぐっと拳を作った。
この上ない喜びの表現である。

欲望のまま動くことが許されるのなら、このまま三橋をぎゅっとしてフワフワの髪を撫で回した……。
さすがにマズいだろう。
それを押さえた結果、机の下での微妙なガッツポーズなのだ。


しかしこれは、一体どういう感情なのだろうか。
純粋な恋とは少し違う気がする。
友達、とも違うだろう。
弟もしっくりこない。

一度感情に名前を付け損ねると、結構気になるものである。
じっとそのまま三橋を見つめ続けると、彼は焦り始めた。

「っと、三橋、ごめん。見つめ過ぎた」

「ううう、うあ、へ、いき、だ」

という言葉が完了する前に、三橋は筆箱を落とした。

全然平気じゃないじゃないか。
しかも締めていなかったのか、中身をぶちまけている。

「う、わっ」

慌てて拾う三橋を手伝おうと、私は彼の筆箱に手を掛けた。

「……ん?」

側に落ちていたのは小さな紙切れ。
気になって良く見てみれば、それは確かに席替えの時のクジで。

「あれ、これって」

「!」

私が持っている紙と同じ番号が書かれたもの。

三橋は、とっくに捨てたと思っていた。

「あ、あ、これ、は」

拾ったものを持ったままぐるぐるとする彼。
私も予想外のことに驚いて、ただじっと三橋を見つめる。

「クジ引き、の、時の、で」

頬が、緩む。

「……私も、持ってるよ」

何故三橋がその紙を取ってあるかは分からない。
でも私はそれを知って、何だか心が暖かくなったから。
今は気にしないことにしよう。


fin...?


問題1
この感情は何と呼ぶのでしょう。
20071029
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